視距離の短さからくる不便 〜探し物ができない〜

弱視児の多くが,近づくことのよって,まわりが想像している以上に小さいものを見ることができます。

しかし,近づくということは,見える範囲(視野)が狭くなることを意味しています。しかも,近づく距離と視野の広さは反比例の関係にあります。つまり,10cmの距離で見る場合は,30cmの距離で見る場合に比べ,視距離は1/3ですが,視野=見える面積は1/9になります。

例えば,教科書を例にとってみますと,通常の30cmの視距離で読む場合は,全部が視野に入っていますので,視線を動かすだけで最初から最後まで読むことができます。  では,実際に10cmの視距離で教科書を読んでみてください。全体を一目で見渡すことは不可能になりますから,全体を見るためには顔を動かす必要があります。弱視児が本を読んでいるところを後ろから見ると,じっとしている晴眼児と違って明らかに頭が上下左右に動いているか,本を動かしています。

視線=目だけを動かすことと顔全体を動かすことは似ているようですが,実はスピードが全く違っています。このことは,観光地の有料望遠鏡で景色を見るときのことを思い出していただければ想像がつくと思います。望遠鏡で大きくしてみたいと思うものを探すだけで大変な思いをしますし,また,今自分が見ているところが景色全体のどの部分にあたるか理解するのにも相当な時間を要します。10cmの視距離は弱視児の中では長い方ですから,5cm,3cmの視距離で見ている弱視児はそれ以上の苦労をしています。

地図,グラフを中心に,教科書の図表の多くは,弱視児にとっては小さい字のものが多く,文字を読むのにただでさえ時間がかかりますが,弱視児が近づいたときの視野より大きいものも多いため,全体像を把握するのには,もっと時間がかかります。もちろん,床に落ちているものを探すのは,ものにもよりますが,相当苦労します。また,授業中に机からものを落としたり,乱雑になりやすい弱視児が多いのも,全体を一時に把握できていないことも関係がありそうです。

見えにくいから大きくしてあげよう−この気持ちは,弱視児にとってとてもありがたいものです。しかし,場合によっては,全体を把握するのに時間がかかって,授業のスピードについていけなかったり,大きすぎて持ち運びや取扱いに不便を生じたりする場合があります。教材を大きくする場合は,1.4倍が限度といわれています。

教材を大きくする,見つけやすいものを目印にしてそれの右上などの指示を出す,事前・事後に個別に指導をするなど,見えにくい時の配慮には様々な方法がありますが,それぞれの児童によって,適切な方法が違っています。また,教材の内容や授業の進め方によっても配慮は違ってきます。

それらについては,連絡帳などを通して担任の先生と一緒に考えていきたいと思っておりますので,何かありましたらお気軽に御相談ください。  また,場合によっては,目の教室からお願いすることもあるかと思いますが,そのときはよろしくお願いいたします。