弱視児と事故・けが-網膜剥離と失明の予防-

視覚障害者が交通事故にあったり、ホームから転落したというニュースは後を絶たないようで、日常生活で視覚障害者が事故にあう確率は晴眼者にくらべて高いようです。

一方で学校事故についてみると、視覚障害児と晴眼児の間にそれほど大きな差はないように思います。ある盲学校では多くの児童が1年のうち何日間か地域の学校で交流学習を受けていますが、全く見えない児童が大半にもかかわらず、ここ何年かを見る限り、ほとんど事故らしい事故を起こさずに過ごしています。これは、受け入れて下さった学校の先生方、児童のみなさん、保護者の方々の配慮の賜物なのでしょうが、しかし、弱視児の場合、いったん事故に巻き込まれると大けがになる可能性が高く、また、失明の危険にさらされる確率が高いのも事実です。

人間の目は3層の膜によって中身を保護しています。一番外側は、目を保護する役目の強膜(白目の部分)、2番目はフィルムに栄養を与える役目の脈絡膜、一番内側はフィルムの役目をする網膜です。網膜はフィルムの役目をしていますから、見るのに邪魔になるので血管がありません。けれども網膜も細胞の集合体ですから、何らかの形で栄養を補給しなければなりません。そこで、脈絡膜から栄養を補給してもらっています。

しかし、この網膜と脈絡膜が何らかの条件ではがれてしまうことがあります。はがれてしまうと網膜への栄養が行かなくなりますから、はがれた部分の網膜は死んでしまいます。この状態が網膜剥離です。網膜剥離が起こりやすい条件としては、上半身や頭部・顔面に強い衝撃を受けた場合(たとえば、出会い頭にぶつかった・強く投げたボールが顔面を直撃したなど)が考えられます。こういった条件では、晴眼児も網膜剥離を起こす可能性がないわけではありませんが、弱視児の場合そのリスクが高いということです。

特に網膜剥離のリスクの高い眼疾としては、次のようなものが知られています。

緑内障 小眼球 無虹彩 強度近視 人工的無水晶体(白内障の手術後)  水晶体亜脱臼 未熟児網膜症(後水晶体線維増殖症) その他、脈絡膜や葡萄膜の病気

 これらの眼疾の児童の場合、成長期には、朝起きたら網膜剥離を起こしていたということもありますので、注意が必要です。また、緑内障の場合は頭部に強い衝撃を加えると、網膜剥離を起こすだけでなく、眼球が破裂することもあります。

しかし、網膜剥離の危険があるから何もさせないというのは考え物です。適切な配慮のもと、安全に留意しながら活動をすることで、活動の質を保障しながら網膜剥離などのリスクを軽減することは十分可能です。それぞれのお子さんによって抱えているリスクの高さは違いますので、お子さんの主治医、目の教室の顧問医の荻野先生などと情報交換を行いながら、適切な配慮を探っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。また、頭部打撲の場合は、眼科の診察も受けていただくようお願いします。