視距離の短さからくる不便 〜はさみがうまく使えない〜
視距離が短いとはさみがうまく使えない?−タイトルを見て疑問に思った方も多いと思います。では、実際に眼前5cmのところではさみを使ってみてください。
刃を大きく開くことができないのがわかります。大きく開くのであれば、刃を紙に対して少し寝かせなければなりません。つまり、眼前5cmではさみを使おうとすると、刃をあまり開かないで、刃先だけで切り進むか、刃を寝かせて切らなければなりません。刃を細かく動かせば、刃の向きが安定せず、切り口はガタガタになる可能性があります。刃を寝かせて切ることになれば、紙が刃にはさまってしまって、うまく切れなくなります。 さらに、この状態で肘と脇腹の関係に目を向けてください。肘が脇腹から離れていて、まさに「脇が甘い」状態になっています。この状態では、はさみが身体の正中線(身体の真ん中を通る線)に平行に保つことができず、その結果はさみが進む方向が安定しなくなります。
はさみだけでなく、字を書くとき、包丁を使うとき、その他色々な道具を使うときにその姿勢が注意されますが、?背筋を伸ばして、?脇を軽く締めて、?(包丁・のこぎりなどでは)半身になって(利き手側の足を少し後ろへずらして)の3点は共通しているようです。しかし、視距離を短くすると、必然的にこれらのことはできなくなります。
このような観点から見て、弱視児が使う場合に注意が必要な道具類として鉛筆・色鉛筆・マーカー類、ものさし、三角定規、分度器、コンパス、はさみ、カッターナイフ、のこぎり、ほうちょうなどがあげられます。また、これとは別に、彫刻刀や小刀など力のいれ具合によって刃が前に飛び出す可能性のあるもの、アルコールランプやコンロなど火を使うものは、目を近づけることで危険の度合いがかなり増していきます。
こう考えてくると、弱視児が道具類を使うのは難しいようですが、悪い姿勢なりに持ち方や動かし方を工夫させたり、近づいてみるポイントを把握させ、その後は姿勢を良くさせたりといった方法を身につけさせることで、ある程度使いこなせるようになります。
また、弱視児は、先生や友達がやっている様子を近づいて見ることができないので、正しい使い方がわからない場合もあります。たとえば、彫刻刀の平刀に表と裏があることを知らなかったり、のこぎりで押すときに一生懸命力を入れていたりすることをたびたび目にします。こういった場合は、少しの時間個別に対応することで問題が解決することもあります。
目の教室では、これらのことも視野に入れながら、指導を進めていきますが、在籍学級でも弱視児は姿勢が悪くなる傾向があり、むしろスムーズに学習を進めて行くには必要なことであるとご理解していただき、使い方を説明するときに、よく見える位置に座らせていただいたり、レンズを使うように促していただければ幸いです。そして、もし、時間があれば、机間巡視のときにでも、個別に指導をしていたければ幸いです。
なお、姿勢との関係で持ち方や扱い方について晴眼児と違った方法を目の教室で教えることもありますが、その場合は、連絡帳等でお知らせしますので、ご配慮お願いします。