弱視児と板書文字ー板書におけるお願いー

「弱視」とは、眼鏡などで矯正しても学習や生活に支障をきたす状態を言いますが、その定義は、医学(病名としての「弱視」)、教育(弱視教育の対象としての「弱視」)、福祉(身体障害者手帳の交付対象としての「弱視」)、それぞれの分野でかなり違っています。たとえば、眼科医から「弱視」と診断されても、弱視学級の対象ではなかったり、身体障害者手帳が交付されなかったりします。

 それでは、弱視教育の対象となる児童はどのような児童でしょうか。

 基本的には、「矯正した視力が両眼とも0.3未満の者のうち点字ではなく普通の文字を使って学習ができる者」とされています。また、視力が0.3をこえる児童であっても、視力以外の視機能の状態が高度だったり進行性の目の病気などの場合は、弱視教育の対象となることがありますが、その場合は専門的な判断が必要です。

では、なぜ矯正視力が両眼とも0.3未満の児童は弱視教育の対象なのでしょうか。

昭和20年代に、東京教育大学の大山信郎先生を中心に教室内の座席の位置と板書文字の見え方の調査が行われました。s下の資料は、それよりも少し新しく、中学生を対象としたものですが、先の大山先生の調査とほぼ同じ内容の調査の結果です。

資料を見ていただくとわかりますが、0.1未満の視力では、教室の前列であっても黒板の文字を読むことが不可能です。また、0.2以下の場合は、教室の前列で何とか見えている状態ですが、十分とは言えず、何らかの配慮が必要です。

小学校、特に、低学年の場合は、黒板の字が大きめなので(実際は、10平方cm以上ある場合が多いと思います)「見えている」と判断されることが多いのですが、実際は、先生の話や授業の流れから書かれている内容を類推している場合も少なくありません。

 一方で、大き過ぎる文字では板書できる文字数が少なくなるので、必要な内容を十分に伝えることはできません。そこで、目の教室では、通常の授業で書かれた板書が読めるように望遠鏡(遠用弱視レンズ)の指導をしています。しかし、遠用弱視レンズを使っても、全部の文字を正確に見ることはできません。また、板書の文字は大きくても、太く、くっきりと書かれていないと見えません。そこで、座席を前の方にしていただくことはもちろんですが、次のことに配慮していただけると、より見やすい板書になりますので、お願いします。

  1. 黒板はもちろん黒板拭きも常にきれいにしておく
  2. 白チョークか黄色のチョークで文字を書く
  3. 児童に板書をさせるときは、大きめの字で書かせる

 1薄い文字では読めなくてもはっきり書かれているだけで読める場合もあります。ただ、せっかくはっきり書いても黒板が汚れていては、薄く書いたのと同じです。

 2赤・青・紫などの色チョークは見えにくいので「文字」や「線画」には使わないようにお願いします。

 3児童が板書をするときは、字が小さくなりがちです。できるだけ大きく(できれば5平方cm以上)になるように注意していただければ幸いです。

これらの配慮をしても板書が見えにくい場合がありますので、板書をする前に、これから書く内容を言っていただいたり、板書した内容を復唱していただけると授業の理解やノートをとるのが楽になります。

教室内座席と板書上文字の見え方との関係

教室内座席と板書上文字の見え方との関係

凡例】 ▲見えにくい者が多い。 △見える者があるが過半数は占めない。 ○見える者が過半数を占める。 ◎見える者が9割を占める。

引用文献 樋渡亮(1963):学校における視力対策,日眼,67,pp.930-939.