国語科から上祖師谷中学校の生徒の皆さんへ高橋克彦「江戸の人々と浮世絵」より引用 文章を読んで考えるということは、感性を磨くきっかけにもなります。 短文ですので、ぜひ読んでみてください。 浮世絵とは何かという問いから始めよう。「浮世」の語源は「憂き世」であって、苦しみや悩みの多い現実を意味するものだった。それをあえてはね返そうという人々のエネルギーが、「憂き」を陽気な意味合いをもつ「浮き」に変えたのである。この発想には、苦悩や貧しさがなんだ、もっと積極的に現実を楽しもうじゃないかという、江戸の人々の意気込みが感じられる。これでわかるように、浮世絵とは、その当時の江戸の人々にとって、ありのままの暮らしを積極的に描いている作品を意味していたのである。 今だってそうだと思う人は大勢いよう。絵は写生が基本である。想像で描く作品のほうが少ない。しかし、それは、浮世絵が普及してからあたりまえとなったことで、三百年も昔の日本ではむしろ逆だった。絵師のほとんどは中国の山水画を中心に据え、仏画や肖像画を描いていた。そして、そのような絵は、寺社や大名家、あるいは大金持ちにしか所有できないものだった。 ところが、そこに版画という技術が開発された。版画のいちばん大きな特徴は、大量生産ができるところにある。つまり、絵を制作する費用が大幅に下がるということだ。絵に対して羨望を抱いていた人々の夢が、版画の出現によって果たされることとなった。といっても、庶民の関心は中国の風景画や仏画に向かっていない。もっと華やかで、しかも、自分たちの生活に密着した作品が欲しい。その欲求が浮世絵を誕生させたのだ。 浮世絵……江戸時代に流行した、人々の生活の様子などを、筆や版画で描いたもの。 山水画……山や川など自然の風景を素材にして描いた絵画。 仏画……仏の姿や仏教に題材をとって描いた絵画。 羨望……せんぼう、うらやましく思うこと。 高橋克彦「江戸の人々と浮世絵」より |
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