校長室の窓から〜『富岳の眺め』 No.3
- 公開日
- 2018/04/20
- 更新日
- 2018/04/20
校長室より
小学生の頃、夕闇が迫る学校の図書室で江戸川乱歩の推理小説に出会った。
それ以来、続きが読みたくて何度も図書室に通った。
本との出会いは、小学生の私の想像力を掻き立て、現実の生活では叶わない時空を超えた様々な体験の機会を私に与えてくれた。
中学生の時に読んだアガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』。ラストの驚愕の真実に唖然となった。
高校生の時に読んだ三浦綾子の『塩狩峠』。生まれて初めて本を読みながら号泣した。
そして大学時代。ちょっとしたきっかけで友人との関係がこじれ、人間不信に陥っていた時に、太宰治の『人間失格』に出会った。
小説の中で、こんな会話の場面がある。
「それは世間が、ゆるさない」
(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)
「そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ。」
(世間じゃない。あなたでしょう?)
私の体の中を電流が走った。
友人から「みんなお前のことを批判しているよ」と言われ、落ち込んでいた私にとって、この小説の中の会話は一筋の光明となった。
「みんな」って誰だ?「世間」って何だ?
それはもしかしたら「みんな」や「世間」の名を借りて、「あなた」自身が言いたかっただけではないのか?
実体のない「みんな」や「世間」に怯えていた当時の私は、その小説の会話をきっかけとして、少しずつではあるが自信を取り戻していった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝の読書時間。廊下から眺めると真剣に本と向き合っている生徒たちの姿がある。
今、あなたが読んでいる本が、あなたの人生の中での素敵な出会いとなりますように、と心から願いながら、教室の前を通り過ぎた。