校長室の窓から〜『富岳の眺め』 No.18
- 公開日
- 2018/06/10
- 更新日
- 2018/06/10
校長室より
それは一瞬の出来事だった。
中学生だった私にとっての最後の運動会。
最大の山場である学級対抗リレー。
コーナーでバランスを崩し、私は転倒した。
悲鳴と歓喜と、そしてため息、
その入り混じった声が聞こえた。
何とか次走者にバトンを渡したものの
結局我がクラスは最下位。
そのまま私は保健室へと運ばれた。
悔しさと情けなさとで
ベッドの中で涙が止まらない。
その時の私はクラスメートに合わせる顔がなかった。
⭐ ⭐ ⭐ ⭐
歳のせいか涙腺が脆くなっている。
昨日の砧中運動会。
私は何度も目頭が熱くなった。
生徒たちの喜びの姿に
生徒たちの打ちひしがれた姿に
仲間と励まし合う姿に
仲間と慰め合う姿に
閉会後の応援団の解団式。
賞状をとった1年生と2年生を3年生の団長が祝福する。
その3年生のクラスには賞状がない。
次の合唱コンクールでは借りを返すと宣言する3年生。
後輩たちからの拍手。
学年の枠を越えた一体感。
私はその場をそっと離れた。
流れ落ちる涙を止めることができない。
ストーリーのないドラマがそこにはある。
⭐ ⭐ ⭐ ⭐
遠い日の運動会の思い出。
クラスメートと顔を合わせたくなかった私は
片付けも終わり、静かになった校舎内を教室に戻った。
振替休日明けの登校を思うと憂鬱な気持ちにおそわれた。
教室のドアを開けた私は信じられない光景を目にする。
全クラスメート、そして担任も教室に残っていた。
そして、思ってもみなかった拍手。
「建部、次のマラソン大会、勝つからな」の声。
私は初めてクラスメートの前で声をあげて泣いていた。
運動会で何度も流れたBGM
【Alexandros 〜 ワタリドリ】
追いかけて 届くよう
僕ら 一心に 羽ばたいて
問いかけて 嘆いた夜
故郷(まち)は 一層 輝いて
ワタリドリの様に今 旅に発つよ
ありもしないストーリーを
描いてみせるよ
※ 生徒たちの応援に駆けつけて頂いた多くの皆様、
ご協力頂いた皆様に心よりお礼を申し上げます。