校長室の窓から〜『富岳の眺め』 No.41
- 公開日
- 2018/11/03
- 更新日
- 2018/11/03
校長室より
1938年10月30日20時
全米を震撼(しんかん)させる臨時ニュースが
ラジオから流れた。
空から飛来した謎の物体がニュージャージー州に落下。
さらにその物体から出現した生物が人々を攻撃し始め、
犠牲者まで出ていると告げたのだ。
ラジオを聴いていた人たちはパニックに陥(おちい)った。
我先に逃げ出す人、武器を手に現場へ向かう人、
混乱は一晩中続いた。
翌朝の新聞各紙はこの事件を大々的に報じた。
世に言う「火星人襲来事件」である。
👾 👾 👾 👾
実はラジオ番組の冒頭(ぼうとう)で
SF小説『宇宙戦争』を題材とした
ニュースの手法をとったドラマだと告げていた。
しかし番組を途中から聴き始めた人たちは
あまりにも迫真の実況放送に
この架空(かくう)のニュースを真実と受け止めたのだ。
ドラマの仕掛人は弱冠(じゃっかん)23歳の無名の俳優
後に映画史にその名を刻む
名優オーソン・ウェルズであった。
現在でもネット上には
真偽(しんぎ)が定かではない様々な情報が飛び交っている。
そして時折、偽(にせ)の情報、フェイクニュースに
私たちも踊らされている。
決して80年前にパニックに陥った人たちを
笑うことはできない。
さらにこの事件には後日談がある。
実はその夜のパニックは
それほど大規模なものではなかった、とも言われている。
当時、新たなメディアとして
人々の注目を受けるようになっていたラジオに対し、
危機感を抱いた新聞が
事件を誇張(こちょう)したのではないかと疑われている。
フェイクニュースの上にフェイクニュース、
今となってはもう、真実は「藪(やぶ)の中」である。
📻 📰 📻 📰
事件当夜に話を戻そう。
ラジオ番組の最後に
オーソン・ウェルズは
ナレーションで次のように締めくくった。
これは大人のためのハロウィンです。
今夜の教訓をお忘れなきよう。
それではみなさん、
おやすみなさい。
※ 左欄カテゴリ「コラム」に余録を掲載しました。