校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.91
- 公開日
- 2019/10/12
- 更新日
- 2019/10/12
校長室より
以前、知人の高校の先生から聞いた話である。
高校入試の面接官をしていたその先生。
ある年の推薦入試で一人の女子中学生を面接した。
面接官
「三年間で一番思い出に残っていることは?」
中学生
「はい、私はソフトボール部の部長に選ばれ・・」
ここまではよくある面接の受け答え。
面接官もこの後の流れは
ある程度予想していたそうである。
中学生
「部長としてチームをまとめ、
大会では目標のベスト4を達成して・・」
いや、そういう話にはならなかったのだ。
実際は
中学生
「部長としてチームをまとめられず、
部員の心は離ればなれとなってしまい、
結果、最後の大会は一回戦敗退となりました」
その生徒の話は続く。
中学生
「私は自分の無力を感じました
それでも私はこの経験を忘れないと決めました
高校ではその時の辛さを心に刻み
今度は笑顔で話せる思い出をつくりたいと思います」
面接官をしたその先生は私に話してくれた。
「うまくいった話が人の心に響くのではない
うまくいかなかった話に人は共感できるんです」
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失敗したこと
うまくいかなかったこと
私たちはこれまで何度も経験してきた。
できれば、そんな話は人にはしたくない。
できれば、うまくいった話をしたい。
できれば、相手が羨(うらや)ましく思う話をしたい。
SNSを開くと「幸せ」を競い合うかのような
投稿が勢揃いしている。
かく言う私もつい、自慢話を披露してしまう。
誰に向けて?
誰かに羨んでほしいから?
でも自分が一番わかっている。
現実はそんなにうまく行っていないことを。
そんな時、SNSの中で
友人の投稿を見つけた。
仕事で大きなミスをして
立ち直れそうにない、と書いてあった。
共感した私は
励ましのメッセージを送った。
📱📱📱📱📱
随分前の話になるが、
学級担任していた私は
その時のクラス運営がうまくいかず
試行錯誤を繰り返していた。
合唱コンクールを前に
どうしてもまとまらないクラス。
気持ちは焦るばかり。
生徒たちを鼓舞しようと
数年前に担任したクラスが
どれだけ素晴らしかったのか、
その結果、優勝を遂げた経験を話した。
話せば話すほど生徒たちの心は離れていった。
ある女子生徒が私にポツリと呟いた。
「そんな過去の話、聞きたくないです」
ある日、ふと思い立って
学活の時間に自分の中学時代の話を
クラスの生徒たちに語り始めた。
この『富岳の眺め』No.18で昨年紹介した
運動会のリレーで私が転倒をして
クラスが最下位に終わった話を。
クラスメートに顔向けができず
教室に戻りたくなかった思いを・・
そんな私をクラスメートが
帰らずに教室で待っていてくれた思い出を・・
話し終えた時、ちょうどチャイムが鳴った。
生徒たちはじっと私を見ている。
教室を出たところで
「過去の話は聞きたくない」と私に言った
例の女子生徒が私を追いかけてきた。
また批判されるのかと構える私。
そんな私に彼女は一言だけ呟いて走り去った。
〜 ちょっと泣けました 〜