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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.93

公開日
2019/10/27
更新日
2019/10/28

校長室より

20代の頃、私が担任する学級では
次から次へと問題が発生していた。
教師になって間もない私には
それらの問題を未然に防止するための
経験も力量も不足しており、
事後処理に追われる日々であった。

あの日・・・

帰宅しようとした私のもとに
地域の商店から
学級の生徒が店でトラブルを起こしたと
突然電話がかかってきた。

「店まで謝罪に行って来ます」
折れそうになる心を奮い立たせ
職員室を出ようとしたその時、
先輩の一人が私に声をかけてきた。

「何事も経験だよ、頑張れ」

私はその一言に負の感情を抱いた。

〜 こんなに頑張っているのに 〜

思わず先輩に対して
失礼な言葉を吐いていた。

「他人事のように言わないでください!」

つい声を荒げてしまった私は
ばつが悪くなり
逃げるように職員室を後にした。


🏫


「頑張れ」という言葉を生徒に対して
なぜ使ってはいけないのか?

数年前、ある教員研修の場で
若い教師から質問を受けたことがある。

質問への答として
私は当時の体験を話した。
あの日の私の率直な思いを。
言葉を使う側が
良し悪しを判断するのではなく、
言葉を受け取る側が
どう思うかが大事なのだと。


マラソンの応援で
日本では「あと○キロ」と励ますことが多い。
残りはあと少し、頑張れ、という思いを込めて。

海外のマラソンでは
「Well done」が使われることが多いと聞いた。
「頑張れ」というよりも
「ここまで良く頑張った」という意味だ。

確かに「あと○キロ」は
「残り○キロしかないのだ」と思う人もいれば
「まだ○キロもあるのか」と思う人もいるだろう。

「頑張れ」も
「よし、もう一息頑張ろう」と思えるか
「これ以上頑張れと言うのか」と思えるかは
人によってそれぞれだろう。

あの日の私は
「これ以上頑張れと言うのか」
そんな先の見えない苛立ちだった気がしてくる。


🏃


あの日・・・

店主へ謝罪をし、
今後の事を話し合うために
生徒宅まで家庭訪問し、
私は疲れた体で学校まで戻ってきた。
時計は21時を回っていた。

既に職員室は誰もいない。
重苦しい気持ちのまま
自分の机の上にふと目をやった。

メモが置いてあった。

数時間前、私に「頑張れ」と告げた
先輩からのメモであった。
そこには次のように書かれていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さっきは、ごめん
よく頑張ったね
〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そのメモを読み終えた時、
私の気持ちは少し軽くなっていた。


※ 砧中学校 学芸発表会が終わりました。
生徒のみなさん
本当によく頑張りましたね。