校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.101
- 公開日
- 2019/12/20
- 更新日
- 2019/12/20
校長室より
12月、街の至る所がライトアップされ
クリスマスソングが流れる。
私が小学校1年か2年の時、
同じクラスにとてもおとなしい少女がいた。
彼女は休み時間も授業中もほとんどしゃべらず
いつもひとりだったように記憶している。
二学期も残り少なくなったある日、
帰りの学活の時間に担任の先生が
私たちに問いかけた。
「みなさんはクリスマスに何をしますか?」
何人かの児童が指名された。
〜 家族でパーティーします 〜
〜 いとこと一緒にスキーへ行きます 〜
笑顔で答えるクラスメートたち。
最後に担任はその少女を指名した。
彼女は質問に答えず無言のままだった。
下をうつむいて顔を上げようとしない。
隣の席だった私は
彼女が泣いていることに気がついた。
その事を担任に告げようとした時、
待ちきれなくなった男子児童の一人が
心ない言葉を彼女に浴びせた。
「黙ってないで早く答えろよ!」
担任の先生もその時になって初めて
少女が泣いていることに気づいたのか
急に慌てた様子で話題を変えた。
「冬休みは計画的に過ごしましょう」
終業のチャイムが鳴る。
少女が寂しそうに教室を出ていく。
その後ろ姿を見送りながら
なぜか切なくなって
声をかけようとして
声をかけられない私。
彼女が背負う赤いランドセルが
所々色が剥(は)がれ落ち
何年も使い古されたように見えた。
その学年が終わる頃
少女は転校して行った。
🎒
『Do They Know it's Christmas?』
(彼らは今日がクリスマスと知ってるだろうか?)
1984年に飢餓で苦しむエチオピアの人々への
チャリティーとして歌われたクリスマスソング。
この曲を聴くと、
遠い日の少女の記憶が呼び起こされる。
華やいだ街のイルミネーション、
サンタの衣装と同じ赤い色が目につく。
この季節の赤い色を見るたびに
私はあの日の少女の
所々色が剥がれ落ちた
赤いランドセルを思い出している。