校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.106
- 公開日
- 2020/01/19
- 更新日
- 2020/01/19
校長室より
No.106【電子書籍にしてみたけれど】
数年前のことである。
知人の勧めで電子書籍を購入した。
昭和世代の私にとってみると
本は紙で読むもの、という思い込みがあった。
しかし、知人の話に心が揺れた。
「書店で買うより安価」
「スクロールではなくページをめくる感覚」
「知らない言葉を辞書でひく手間が省ける」
それなら、とタブレットにダウンロードした。
いざ、購入してみると
その便利さに完全に虜となった。
書店まで行かなくても、
通勤電車の中で買いたい本を探せる。
スクロールで文章を読むことに
読みづらさを感じていた私にとって
ページをめくる感覚がうれしかった。
そして最も助かったのが、
知らない言葉が出てきた時に
Web上で瞬時にして調べられるのだ。
重い辞書を常に持ち運ぶ必要もない。
私は次々と電子書籍を購入した。
通勤電車の中やカフェで
ちょっと気取ってタブレットを取り出し、
画面上を指で弾きながら
時代の最先端を行く気分を味わっていた。
📱
しかし、半年後
何か物足りなさを感じ始めている私がいた。
その物足りなさの正体が判然としないまま
電子書籍を読み続けていた。
ある日、文章中の一つの漢字を前に
「あれっ?」と考え込んだ。
〜 塒 〜
数日前、確かこの漢字が読めなくて
Web上で調べていたのだ。
しかし、再びこの漢字を前にして
何と読むのかどうしても思い出せない。
Webで調べると簡単に答えに行き着く。
簡単すぎて記憶に残っていないのだ。
〜 塒 〜
かつては読み方がわからなければ
漢和辞典で調べていた。
まずは部首である「土」を頼りに
次は画数を数えていた。
画数を数えるために何度もこの字を書き、
書くことで漢字を覚えた。
そして、ようやく漢和辞典の中に
探していた漢字を発見する。
〜 塒 〜
"ねぐら" と読む。
そう、鳥などの巣のことを指すのだ。
そうやって行きつ戻りつしながら
覚えた漢字は自分のものになっている。
英単語も同じである。
〜 weird 〜
奇妙な、奇怪な という意味。
英和辞典で調べる時は
スペルを一つずつ確認しなければならない。
そうやって調べていくと
「e」と「i」の順序を逆に覚えることはない。
Web上をクリックしながら調べていると
どうしてもスペルが曖昧なままである。
気がつけば私は
いつの間にか紙の本に回帰していた。
新しい紙の匂い、
そして手触り、
隣には辞書を置き、
やっぱり私にはこのスタイルが合っている。
さて、中学生のみなさんに質問です。
今回のコラムの文章中に出てくる
「虜」「判然」「曖昧」「回帰」について
その読みと意味を調べてみましょう。
もちろん、辞書を使って。
「曖昧」という言葉、
読めるとしても、漢字で書けますか?