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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.113

公開日
2020/03/07
更新日
2020/03/07

校長室より

No.113 【「風の電話」が伝える言葉】

その白い電話ボックスは
岩手県大槌町の海を望む丘の上にある。
電話線はつながっていない。
それでも多くの人がここを訪れ、
受話器をとり、ダイヤルする。
もう二度と会えなくなった人と
会話をするために。

東日本大震災から9年、
3万人を超える人が
この電話ボックスを利用している。

📞

映画『風の電話』

高校生のハルは震災で家族全員を失い、
今は広島で伯母と二人暮らし。
その伯母が突然、病に倒れる。
絶望感に苛(さいな)まれたハルは
広島から生まれ故郷である岩手へと向かう。
家族との幸せだった日々を追い求めて。

旅の途中で多くの出会いがある。

原爆の体験を語る年老いた女性。
故郷の無いクルド難民の家族。
事故責任に苦しむ福島の元原発作業員。

この国の幸せという上澄みの底に、
多くの悲しみが沈殿していることをハルは知る。

やっとの思いでたどり着いた故郷の大槌町。
住んでいた家は跡形もなく、
もちろん、家族の出迎えもない。

「ただいま」
「おかえり」

帰宅した時に
当たり前のように交わす会話が
どれほどいとおしいものだったことか。

「どうして誰も返事してくれないの?」

ハルの涙ながらの叫びにも、
答えてくれる家族はどこにもいない。

映画のラストシーン。
電話ボックスの扉を開け、
ハルが受話器をとり、ダイヤルする。
もう二度と会えなくなった家族と
会話をするために。

「もしもし、ハルだよ。17歳になったよ…」

この電話ボックスの中での10分間の会話には
台本は一切なかったという。


電話ボックスの中には
毛筆の詩が掲げられている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あなたは誰と話しますか
風の電話は心でします
風を聞いたなら想い伝えて下さい
想いはきっと伝わるでしょう
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

☎️

新型コロナウィルスの国内での感染者が
1,000人を超えた、とニュースが伝えている。

東日本大震災での行方不明者は
9年たった今もまだ
2,500人を超えている。