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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.116

公開日
2020/03/28
更新日
2020/03/28

校長室より

No.116【回復する力を】

30数年前の社会科授業、
私は「石油ショック」を題材に取り上げた。
1973年、石油の価格が値上がりし、
国中が混乱に見舞われた出来事である。
トイレットペーパーが無くなると噂が広がり
店には客が押しかけ、買いだめが始まる。
授業ではその様子を映像で紹介した。

「あり得ない」
その争奪の場面で生徒たちが爆笑した。
私もつられて笑ってしまった。
1973年石油ショック当時、
まだ小学生だった私には
大人たちの切迫感が
自分の問題としては見えていなかった。

歴史から何を学ぶのか、
目的が明確ではなかった私は
その貴重な映像を掘り下げることもせず
単に「面白い映像」として紹介していた。

当時の授業の未熟さを思い出しては
穴があったら入りたい気分に陥っている。

🛒

この『富岳の眺め』の中で
何度か自らの体験談を書いてきた。
その際、心がけてきたのは
決して過去を美化しない、という事だった。
「あの頃は良かった」という話は
その時代を知らない世代にとってみると
不公平なことだと思う。
過去を知っている者は、
いくらでも当時の思い出を美化、
つまり「話を盛る」ことができるのだ。

そうならないためには
自らの体験談は成功談ではなく、
失敗談や辛かった思い出の方がいい。
若い世代に向けて、
同じ失敗を繰り返さないでほしい、
今の辛さは昔からあったんだよ、
そういったメッセージを込めたいと願う。

SNSを眺めてみると
幸せな話題のオンパレードである。
「いいね」を押しながら
心のどこかでは空しさを感じている。
時たま、失敗談が投稿されていると
思わずコメントを書いてしまう。
自分のこととして真剣に考えている。

「人間力とは何ですか?」
何度か質問されたことがある。
私はこう答えるようにしている。
「失敗から回復する力です」と。

人間の本当の強さとは
失敗を失敗として認めて
どうやって一歩を踏み出すかだと思う。
私がこれまでの人生で出会った
こんな人になりたいと思った人たちは
みんな失敗をきちんと受け止めて、
何が問題だったかを見極め
その問題を克服しようとしていた。

『富岳の眺め』には
そんな思いを込めてきた。
私の失敗だらけの体験談を紹介し、
読んでいただいているみなさんなら
どうやって乗り越えますか、と。

🌸

2020年、新型コロナウイルス問題
私たちにはまだ出口が見えない。
そして、1973年当時の失敗を
同じように繰り返している。

それでも信じたい。
当時の大人たちが悩み苦しみながら
今の社会を築いてきたように
私たちもまた次の世代へ向けて
新しい社会を築けるはずだと。