校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.121
- 公開日
- 2020/05/10
- 更新日
- 2020/05/10
校長室より
No.121【100歳のアイドル】
アイドル全盛の1990年代、
突然、日本中の人気者となった
双子のおばあちゃんがいた。
きんさん、ぎんさん 共に100歳。
テレビCM出演をきっかけとして
またたく間に視聴者の心をつかんだ。
二人の勢いは止まらない。
CDデビュー、写真集発売、
紅白歌合戦ゲスト出演などなど、
まさにアイドル並みの大活躍。
お二人の魅力はその年齢だけではなく、
タレント顔負けのアドリブにある。
「テレビ出演料は何に使いますか?」
こんな質問を受けたお二人の答えは…
「老後の蓄(たくわ)え」
高齢化を迎えた日本社会に
お年寄りの理想像を示したのだ。
視聴者はお二人の姿に
元気と笑顔をもらった。
名言も数々ある。
そのうちの私が好きな言葉。
「顔のしわは増えても
心のしわを生(は)やしちゃいかん」
私がお二人に魅力を感じたのは
そのエネルギッシュさだけではない。
生まれたのは1892年(明治25年)。
お二人がテレビで語る思い出話は
まさに教科書の中の歴史。
日露戦争時に見かけた
ロシア兵の話などは
社会科の授業で使えないかと
真剣にメモしたことを憶えている。
社会が停滞し始めた1990年代を
日本中を元気にしながら駆け抜け、
お二人は天寿を全うされた。
きんさん、107歳
ぎんさん、108歳。
なぜ、今回このコラムで
お二人を取り上げたのか?
感染症問題に苦しむ今の社会に向け
苦難を乗り越えたお二人なら
どんな言葉を話されるのか、
私はふと聞いてみたくなったのだ。
以前、ぎんさんの五女が語っていた。
戦争中、娘ばかりのぎんさん家族は
世間から白い眼で見られたという。
「兵隊に出せない家は
お国の役に立っていない」と。
近所から嫌がらせを受ける中で
それでもぎんさんは黙って耐え続けた。
娘たちには名古屋弁で
こう話したと言う。
「悪いのはあの人たちでにゃあ、
戦争だがね」