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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.123

公開日
2020/05/23
更新日
2020/05/23

校長室より

No.123【「ペスト」を読む】
※ ネタバレ注意

カミュの小説「ペスト」を読んだ。
本の題名は昔から知っていたものの
これまで一度も読んだことがなかった。

恥ずかしながら私は
中世ヨーロッパの話だと思っていた。
舞台は1940年代のアルジェリア。
それ程遠い過去の話ではない。
だからこそ登場人物たちの思いが
現代の私たちにも自然に伝わってくる。

物語は主人公の医師が
ある朝、一匹のネズミの死骸(しがい)を
偶然目にするところから始まる。

「何かが起きている・・」

人は心のどこかで違和感を覚えながらも
何事も無かったかのように
日常生活に戻ろうとする。
そして問題に気がつかなかったと
自分に思い込ませようとする。
その問題に向き合うことが恐いから。

ペストが蔓延(まんえん)し、
自分の身近に問題が起きて初めて
人はパニックに陥るのだ。

小説の登場人物たちの言動は
カミュが予見していた通り
今まさに、世界の現実となった。

物語の後半、
感染者の数が減少に転じ、
人々の間に安堵の気持ちが戻ってくる。
そんな中、一人の主要人物が発症する。
彼は病魔と壮絶に戦い、
力尽きて息を引き取るのだ。
その頃、町では
祝賀行事が催されている。
ついにペストに打ち勝った、と。

今、私たちもまた
感染者数が減少傾向の中にある。
私は想像を巡らせた。
そして身震いした。

ある日テレビのニュースが報じる。
「今日の感染者数は
ついに一人となりました!」
もしもその一人が
小説の登場人物と同じように
自分であったとしたら・・・。