校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.139
- 公開日
- 2020/09/12
- 更新日
- 2020/09/12
校長室より
No.139【わかりやすさの先に】
30年以上も前の話。
社会科地理の授業で
私は生徒たちに2枚の写真を見せた。
どちらも海水浴場の風景。
1枚は東京近郊の海水浴場、
そしてもう1枚は
南ヨーロッパのリゾート地のビーチ。
東京近郊の写真は
海水浴客で砂浜はごった返している。
一方、南ヨーロッパの写真では
海水浴客はまばらで
ゆったりとした風景である。
この2枚の写真を比較して
私は何を答えさせたかったのか?
日本では夏休みは欧米と比べて短く
観光客は一極集中になりがち。
ヨーロッパでは慣習的に
長いバカンスをゆったりと過ごす。
それが私の求めていた正解だった。
私のその思惑(おもわく)に対して
ヨーロッパでの滞在経験のある
一人の生徒が異を唱えた。
「この2枚の写真からではそう言えません」
その生徒の主張はこうだった。
確かに海水浴客の数は違う。
しかし南ヨーロッパでは
ホテルの宿泊客しか利用できない
プライベートなビーチが多い。
もしこの写真のビーチが
そういった宿泊客限定だったとしたら
誰でも利用できる東京近郊の海水浴場とは
数での比較できないのではないか。
私はその主張に全く反論できなかった。
⛵
”うがい薬が感染症予防に有効"
先日、ニュース速報が流れた時、
私はその朗報に喜んだ。
しかしニュース記事を読みながら
ふと違和感を覚えたのだ。
うがい薬を使ったグループと
使わなかったグループでは
使ったグループに効果が見られた・・。
それはうがい薬に効果があったのだと
果たして断定できるのだろうか?
うがい薬を薄めるために使った
水道水の中に含まれる塩素の方が
ウイルスに効果があったと考えられないか?
いや、そもそも
水でうがいすることこそが
ウイルスに有効だったとは言えないのか?
数時間後、このニュースに対して
様々な反論が続出することとなった。
🚰
2枚の写真を使った
30年前の地理の授業に話は戻る。
私は授業を行った全てのクラスで
お詫びと訂正を行った。
すると予想外の事が起きたのだ。
2枚の写真は同じ年に撮影したものか?
撮影した年がもし異なっていれば
単純に比較できないのではないか?
東京近郊の海水浴場は鉄道駅に近い。
鉄道駅に近いと海水浴客は当然多い。
南ヨーロッパのビーチの方も
近くに鉄道駅があるのか調べてみては?
各クラスで次々と意見が出始めたのだ。
一方通行による説明が中心で
一つの答えを押しつけていた
当時の私の社会科の授業が
「探究的な授業」へと姿を変えていた。