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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.141

公開日
2020/09/25
更新日
2020/09/25

校長室より

No.141【記憶と忘却】

10数年前まで仕事の合間をぬって、
日々の新聞記事を切り抜き
スクラップ帳を作っていた。
時にはその記事に関する
自分の感想も添えながら。

年の終わりには
そのスクラップ帳を取り出し
一年を振り返っていた。
しかし驚くことに
ほとんどの記事を忘れているのだ。
記事の内容もそうだが
自分が書いた感想までも。
そして改めて驚かされる。
いかに多くのニュースが
一年間で私の前を通り過ぎ
忘れ去られていったのかを。

今ではスマホにキーワードを入力すると
過去のどんな記事も瞬時に検索できる。
日々の記事をスクラップするという習慣も
いつしか私は忘れ去ってしまった。

📰

「忘却の穴」という言葉がある。

ナチス・ドイツにより
多くのユダヤ人が強制連行された。
町に住んでいたユダヤ人家族が
ある日突然連れ去られていく。
しかし隣近所の住民たちは
強制連行など無かったかのように
日常生活を続けていく。
いや、そもそも隣近所に
ユダヤ人家族が住んでいたという記憶自体
忘れ去っているのだ。
完全なる記憶の消失、
それが「忘却の穴」なのである。

アンネ・フランク。
彼女が日々の出来事を日記につづり
その日記が出版されることがなければ
私たちは彼女の生きた日常を
そして彼女の存在さえも
永遠に知ることはなかったのである。

📖

数日前、古紙回収のために
たまっていた新聞を梱包していた。
ふとある記事が目にとまった。
今年7月に起きた
アフリカ大陸に近いモーリシャスでの
貨物船座礁による大量の重油流出事故。
自然環境の回復までには
30年の歳月を要するという。
いつの間にか報道されなくなったニュース。

その時私は当たり前の事実に気づいた。
そもそもニュース自体を忘れてしまうと
キーワードをスマホに入力して
検索することさえできないという事実を……