校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.147
- 公開日
- 2020/11/07
- 更新日
- 2020/11/07
校長室より
No.147【取り残される不安】
英国人ダニエル、59歳。
元は腕のいい大工であったが、
心臓病を患(わずら)い失業中。
妻とも死別して
今は寂しい一人暮らし。
彼は生活のために
役所へ失業手当給付を申請する。
役所の申請窓口への電話。
メッセージに従って操作するも
なかなかつながらない。
数十分も待たされた挙げ句に
流れてきた録音メッセージは
「現在混みあっています」
「もう一度おかけ直しください」
役所の窓口に直接出向き
書類で申請しようとすると
紙では受け付けていないと言われる。
申請手続きはオンラインのみなのだ。
ダニエルは腕のいい大工ではあるが
パソコンは全くの素人。
一から操作の仕方を学ぶことになる。
「画面上でマウスを動かして」の指示に
マウスを画面につけて動かそうとする。
2017年公開のイギリス映画
『わたしは、ダニエル・ブレイク』。
つい笑い出しそうになりながらも
私は哀(かな)しさも感じていた。
果たしてダニエルの姿を
私は笑うことができるだろうか?
🖱️
例えば私もオンラインで申請を行う。
すると個人情報保護のため
パスワードの入力が求められる。
入力するが受け付けてもらえない。
数字と英語の大文字・小文字、
その組み合わせでないと駄目なのだ。
複雑に、そして増えていくパスワード。
その結果次回パスワードを使う時には
どのパスワードだったのか忘れている。
また何十分もかけてパソコンを操作し、
やっとの思いで申請画面にたどり着く。
これで完了と、申請をクリックすると
エラーメッセージが表示される。
その時点で気持ちが萎(な)えてしまい、
私は「もういいや」と
申請自体を諦(あきら)めてしまう。
AI 化が急速に進み、
効率性は格段に上がっている… はず。
使いこなせるのが当たり前の風潮の中、
使いこなせていない自分に対して
苛立(いらだ)ちを覚えてしまう。
社会から取り残される不安を隠して、
私は使いこなせている自分を演じる。
🔨
ダニエルは腕のいい大工。
偶然出会った生活苦の母子のために
家の修理を手伝ったり
子供たちのための玩具を作る。
ものづくりでは誰にも負けない。
それでも社会的には弱者である。
弱者の母子を支え続ける
弱者のダニエル。
弱者の気持ちが理解できるのは
自分も弱者だから。
映画のラストで
ダニエルの心の叫びが胸を打つ。
「わたしは、ダニエル・ブレイク。
ひとりの人間なんだ!」