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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.158

公開日
2021/01/11
更新日
2021/01/11

校長室より

No.158【その犬の名は】

野生の動物が山から下りてきて
人と接触する機会が増えている。
人と野生動物の境界線が
曖昧(あいまい)になってきている。

人間が山の中で道に迷い
誤って狼や山犬の縄張りに
入ってしまうことは昔からあった。
すると狼や山犬は警戒心から
人間が縄張りの外に出るまで
後ろから付いてくると言うのだ。

その狼や山犬の習性から
「送り狼」「送り犬」などの
言葉が生まれたと言われている。

あくまでも私の想像だが・・・
縄張りの外まで付いてきた山犬が
ある日境界線を越えて、
人間の暮らしの中に
入ってきた可能性がある。
それが人間と犬との
3万年にもわたる共同生活の
始まりなのかもしれない。

🐺

動物の中で唯一犬だけが
人の指差しを理解し、
視線の動きを読み取ると言う。
人の機嫌が悪いと見るや
あえて距離をとり始める。
人が慰めてほしいと思う時は
静かに寄り添ってくれる。
3万年の長きにもわたる歴史が
言葉が無くても通じ合える
動物種を越えた信頼を築いてきた。

🐶

昨年の直木賞受賞作『少年と犬』。
東北から九州に向け
旅を続ける一匹の犬の物語。
何年もに渡る旅の途中で
心に傷を抱えた人たちと出会い、
そして静かに去って行く。

その犬に出会った人たちは
自らの心の苦しみを犬に語る。
語ることで心が癒(いや)され、
自らを少しずつ取り戻していく。

もちろん犬は何も語らない。
何も語らなくても
その眼差しは優しく
人の哀しみにそっと寄り添う。

そして最終章で
その犬が旅を続ける理由が
明かされることになる。
人と犬の不思議な縁(えん)として。

その犬の名は「たもん」、
仏教の四天王である
多聞天が由来の
多くを聞く、「多聞」である。

🐩
ちなみにかつて私の実家で
飼っていた犬の名前は
わかる人にはわかる
名前の由来であった。

その犬の名は
「パトラッシュ」である。

※参考
NHK ETV
『又吉直樹のヘウレーカ!』
「犬はなぜ人になつくのか?」
2020年11月4日放送