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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.159

公開日
2021/01/16
更新日
2021/01/16

校長室より

No.159【時刻表を読む】

20代の頃の私は
リュックを背負い
様々な国を旅していた。
いわゆるバックパッカーである。

⛴️

その日の私は
イギリス・ドーバーから船に乗り
ベルギーの港へと向かっていた。
時刻表では船の出航は9時35分、
到着が12時15分となっていた。

船が港を離れてまもなく
船内アナウンスが流れた。
所要時間は100分という。
アナウンス通りの100分なら
ベルギー着は11時15分となる。
時刻表と合わないのだ。

疑問に思いながらも
私はなりゆきに任せることにした。

🛥️

船がベルギーの港町
オステンドに到着した。
腕時計を見る。
11時15分・・・
アナウンス通り100分で到着。
時刻表も間違うことがあるのだと
私は1時間得をした気分となった。
オステンドからの列車は
時刻表では13時34分発となる。
まだ2時間以上もあるため
港町をゆっくり散策することにした。



カモメが飛び交う港の風景。
潮の香りと海風が心地よく感じる。

腕時計を見る。
12時25分
まだ出発まで1時間以上もある。
私は昼食でも食べようと
あたりを見回した。
その時、ふと時計台が目にとまった。

何気なくその時計を眺めた私は
違和感に首をかしげる。
その時計の針が示していたのは
13時25分・・・なのである。

私の腕時計は先ほどと変わらず
12時25分のまま。
慌てて他の時計を探す。
近くのレストラン、
その店内の時計が目に入った。
13時25分・・・なのだ!!

今の時刻は
12時25分ではなく
13時25分、で間違いない。
それでは私の腕時計が遅れたのか。
狐につままれたような気分のまま
私は猛然と鉄道駅へ向け走り出した。
13時34分の列車の発車時刻まで
既に9分を切っていた。



外出自粛が続く日々。
私は30年以上前の旅日記と
当時の時刻表を
押し入れの奥から引っ張り出し、
何度も何度も読み返している。
 
心の中でも
旅は十分楽しいのだ。


最後に1時間の謎の真相を。

船内アナウンスも
私の腕時計も
オステンドの町の時計も
そして時刻表も
全てが正しかったのである。

私はうっかりしていたのだ。
イギリスとベルギーの間では
1時間の時差があることを。