No.172【選択教科の精鋭たち】

今から20年以上前、
中学校では教科の授業とは別に
「選択教科」という時間があった。
普段の授業の枠にとらわれずに
教師は様々な創意工夫ができる。
生徒は自分の興味関心に応じて
希望する教科を選択できた。

私が担当した選択社会科は、
映画から社会科を学ぶという内容。
映画好きの私の得意分野である。
そしてそこに集まってきた生徒は
その私をはるかに凌(しの)ぐ
映画通の精鋭たちであった。

📽️

その年は生徒たちの提案により
映画『タイタニック』(1997年)を
徹底分析することとなった。
映画通の生徒たちによる
調査力と分析の緻密(ちみつ)さに
私は何度も驚かされることになる。

ある生徒は
なぜ一等船室の乗客が救助され、
三等船室の乗客が犠牲となったのかを
船賃価格の面から調べた。

その生徒は当時の船賃を調べ
現在のレートに当てはめながら
一等船室が約500万円、
三等船室が約３万円と割り出した。
船員の立場から限られた救命ボートで
誰を優先的に救助するかを考えた場合、
その価格差を完全に無視することは
できなかったのでは、と推論した。

また別の生徒は
映画のラストシーンに着目した。

救助された主人公ローズの生涯が
ポートレートで紹介される。
乗馬や飛行機操縦など
活動的な女性として
その後の人生を生きたローズ。
同じ頃、大正時代の日本においても
女性が社会で活躍するようになった。
「ローズから学ぶ大正デモクラシー」
これまでにない斬新な視点から
その生徒は発表を行った。
(※ ローズは架空の人物である)

まだネット検索が
一般的ではなかった1990年代後半。
生徒たちは何度も図書館へ通いながら
映画を深掘りし続けたのである。

　
　これをやっていれば
　幸せということ　
　誰でも一つ、あります。

　それを探しなさい。　

　 (映画評論家 淀川長治)

🛳️

〜 タイタニック号 〜

1912年4月15日未明
北大西洋上で氷山に接触し、
沈没した豪華客船。

1500名以上の犠牲者を出した
当時最悪の海難事故として
歴史にその名を刻んでいる。