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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.208

公開日
2021/12/24
更新日
2021/12/24

校長室より

No.208
【クリスマスソングが流れる頃には】

中学3年生2学期の成績が
思い通りではなかった私は
不安な気持ちを抱えていた。

第一志望校のままでいくのか、
それとも受験校を変更すべきか。
同じ第一志望校を目指す友人たちが
みんな自信に溢れているように見えて
私は次第に追い詰められていった。

もし自分一人が不合格だったとしたら、
そう考え始めると夜も眠れない。
悩めば悩むほど悪循環に陥ってしまい、
後ろ向きの気持ちのまま
私は志望校を変更することにした。

🍗

クリスマスイブの食卓で
志望校変更を家族に告げた途端、
父から猛反対された。
美味しそうな料理を前にして
家中の空気が一変した。

「甘えている」
「逃げている」

自分が一番そう思っていただけに
直接言われると無性に腹が立った。
そのまま食事もとらずに、
気がつけば家を飛び出していた。

行くあてなどどこにもない。
友だちの家も今頃は
イブの食卓を囲んでいる頃。

街中をぐるぐると巡った。
1時間・・・2時間・・・
華やいだ風景がむなしく目に映る。
このまま何時間もうろついて
家族を心配させてやりたい、
そんな屈折した感情が沸き出てくる。

3時間も経つと寒さと空腹で
さすがに耐えられなくなってきた。
しかしどんな顔をして
家に帰ればいいのかわからない。
とりあえず家の近くまで戻り、
物陰からそっと様子を伺ってみた。

🎄

家の前には誰もいない。

近所の家々からは
楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
自分の事など誰も心配していない、
そう思うとまた腹が立ってきた。

もう一度街へと引き返そうと
その場から立ち去りかけた時、
反対方向から父が
駆けて来るのが見えた。
あわてて物陰に隠れる私。
家の前に立ち、
周囲を心配そうに見回す父。

その姿を見ていると
いつしか怒りの感情が
悲しみへと変化していることに
自分ながら驚いていた。


その後、どういった経緯で
家に戻ることになったのか
私の記憶は定かではない。

ただ思い出の片隅では
今は亡き父が
今は存在しない家の前で
心配そうに立ち尽くす姿だけが
物陰越しに見えるだけである。


遠くから流れてくる
クリスマスソングを聞きながら。