校長室の窓から〜『富岳の眺め』 No.50
- 公開日
- 2019/01/02
- 更新日
- 2019/01/05
校長室より
私自身、数年前から新年のあいさつを
SNSで送信する機会が増えてきた。
手軽で速く、便利であることは間違いない。
それでもまだ多くは年賀はがきを書いている。
一年前にいただいた相手からの年賀状を読み返し、
改めて相手のことを思いながら、
一筆一筆に心を込める。
手紙を書く時は便箋(びんせん)に書いた文章を
一晩投函(とうかん)せずに手元に置いておく。
翌日もう一度読み直し、
相手に対して失礼な表現になっていないか、
自分中心の表現になっていないかを確認する。
私はこの行為を
「手紙を一晩寝かせる」
と呼んでいる。
不思議なもので
手紙を一晩寝かせてみると
気恥ずかしくなるような言い回しが目についてくる。
どれほど慎重に書いたとしても
書いた当初の文章は、
自分本位の文章になっているようだ。
私たちは手紙やはがきを書くことで、
相手の立場に立って文章を書くことを学んできた。
時候のあいさつも
感謝の気持ちも
書くことを通して学んできたように思う。
そして、「相手の立場に立って書く」という
基本を身につけておくことは
SNSで文章を書く(打つ)時も同じである、と考えている。
それを読んだ相手がどう感じ、どう受けとめるのか
想像力や共感力があってはじめて
情報伝達の手段としてSNSを使う意味がある。
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小説『ツバキ文具店』(小川糸 著)。
祖母の跡を継ぎ、
代筆屋になった主人公・鳩子の物語。
代筆の依頼を受けた手紙。
送り先の相手のことを時間をかけて調べ、想像し、
時には筆記具や紙、封筒から切手まで
相手と書く内容に合わせて丁寧に選ぶ。
本の中で紹介される手紙の一文一文に心が温まり
自分もこんな手紙を受け取りたいと思い、
またこんな手紙を送りたいと考えさせられる。
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小説では
手紙を書いて投函したものの、
後悔してその手紙を返してもらおうと
どしゃ降りの雨の中
ポストの前で待ち続ける女性が登場する。
自分が書いたものを後でもう一度読み直す。
それは手紙でもはがきでも、SNSでも同じ。
SNSも送信ボタンを押す前に
一度、そのメッセージを寝かせてみてはいかがでしょう。
一晩とは言わずとも。
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