校長室の窓から〜『富岳の眺め』 No.56
- 公開日
- 2019/02/10
- 更新日
- 2019/02/11
校長室より
好きな言葉は? と尋ねられると
私は決まってこの言葉を紹介してきた。
〜 Tomorrow is another day 〜
" 明日は明日の風が吹く "
映画『風と共に去りぬ』(1939年)の中で
ヴィヴィアン・リー演じる主人公スカーレット・オハラの
ラストシーンでの名セリフ。
愛する人たち全てを失い
絶望の淵(ふち)へと追いやられたスカーレット。
それでも彼女はラストで顔を上げ、
この言葉を自らに言い聞かせて
再び立ち上がろうとする。
明日に不安を感じ、気持ちが沈んだ時、
私も自らに言い聞かせてきた。
" 明日は明日の風が吹く " と。
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映画の原作は1936年に刊行された小説
『Gone With the Wind』
著者はマーガレット・ミッチェル。
翻訳家の鴻巣友季子(こうのすゆきこ)さんが
この小説の魅力を紹介していた。
ヒロインのスカーレットは決して性格がいいとは言えない。
それでも読者は彼女に共感を覚える。
その秘密は小説の文体にあると言うのだ。
物語の中でスカーレットの表と裏の声が
絶妙に織り交ぜられている。
例えば妹の婚約者フランクとの会話。
商売に成功したことを自慢したいフランクに対し、
心の中で「うぬぼれ屋のおやじめ!」と毒づきながら
実際は笑顔でこう言った。
「まあ、ぜひうかがいたいわ!」
まさに本音と建前、
内なる声と表の顔の使い分け。
今では小説やドラマでは当たり前のこの表現、
1936年当時は斬新(ざんしん)な手法だった。
読者はスカーレットに反発しつつも
心のどこかで自分と重ね合わせ、
「わかるわかる、その気持ち」となっていく。
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さて、本題の Tomorrow is another day について。
日本では長らく小説の翻訳で
「明日は明日の風が吹く」と訳されてきた。
しかし、最近ではもっと直訳に近く
「明日は今日とは別の日だから」
と訳されているようだ。
翻訳家の鴻巣さんがある高校の授業に招かれた際に、
高校生に Tomorrow is another day を訳してもらった。
その時、一人の高校生が次のように訳したという。
「とりあえず、寝よう」
なかなかの名訳である。
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