校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.69
- 公開日
- 2019/05/18
- 更新日
- 2019/05/18
校長室より
森と湖の国フィンランド、
その首都ヘルシンキにある小さな食堂。
日本食を提供するその食堂は
開店から一ヶ月、全く客が入らない。
2006年公開の映画『かもめ食堂』は
全編フィンランドでロケが行われた。
日本食に馴染みのないフィンランドの人々は
好奇心はあっても店内には入ってこようとしない。
それでも小林聡美さん演じる店主のサチエは
肩に力が入ることもなく自然体なのだ。
「毎日真面目にやっていれば
そのうちお客さんも来るようになりますよ」
「来なかったら?」
「その時はその時です」
頑張ることにちょっと疲れた時に
肩の力を抜いて、のんびりと観たい映画である。
🍙 🍙 🍙 🍙
さて、フィンランドと言えば「ムーミン」。
一年前の大学入試センター試験、地理の問題。
ムーミンと関係する国は
フィンランドかノルウェーかを選択する。
ムーミンの舞台は架空のムーミン谷であって
どちらも不正解ではないか、
そもそもムーミンなんて高校で教わっていない、
SNSやメディアでこの出題に批判が相次いだ。
それでもこの地理の問題、
ムーミンを知らなくても
いくつかのヒントをもとに仮説を立てていくと
フィンランドの正解にたどり着けるようになっている。
私個人としては、受験生の「仮説検証する力」を試す
なかなかの良問だと考えている。
それよりも、気に入らなければ何でもバッシングする
肩に力の入り過ぎた最近の風潮の方にこそ不安を感じる。
何でも目くじらを立てる人たちに
ムーミンの登場人物スナフキンの言葉を贈りたい。
「長い旅行に必要なのは大きなカバンではなく、
口ずさめる一つの歌さ」
🍴 🍴 🍴 🍴
自然に恵まれたフィンランド。
そこに住む人たちの暮らしは
ゆったりと人生を謳歌(おうか)しているように見える。
それでも映画『かもめ食堂』の中で
様々な悩みを抱えた客たちがやって来る。
再び店主サチエの言葉。
「どこにいたって悲しい人は悲しい
寂しい人は寂しいのよ」
人の悩みに国境はない。
サチエの人柄と
美味しい料理に誘われて
かもめ食堂に次第に客が増えていく。
サチエの「食堂を満席にする」という夢が
果たして叶えられる日は来るのだろうか。
映画を見終わった後、
少し肩の力が抜けている自分がいる。
コラムの最後に再び大学入試の「ムーミン問題」。
この論争について尋ねられたフィンランド外相。
彼は笑顔でこう答えたと言う。
「ムーミンは一人一人の心の中にいる」