校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.70
- 公開日
- 2019/05/28
- 更新日
- 2019/05/28
校長室より
「嵐山の竹が泣いています・・・」
一年前、京都の観光会社が
ネット上に被害を訴えた。
竹林で有名な京都・嵐山。
100本以上の竹に落書きが相次いで発見されたのだ。
数日前、私はその竹林の小径(こみち)を歩いてみた。
「幽玄(ゆうげん)」「雅(みやび)」
そんな言葉が似合う趣(おもむき)ある散策路。
遠い過去へとタイムスリップしたような感覚。
次世代へと引き継ぎたい景観である。
観光客の増加に比例して
マナー違反も増加しているという。
竹に刃物で自分の名前などを彫り、
それをSNSに投稿するというのだ。
知人に見せびらかしたいためだけの
視野の狭い自己主張。
長い歴史の中で受け継がれてきた自然美に対して、
悲しいまでの現代人の浅はかさである。
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高畑勲監督作品
映画『かぐや姫の物語』(2013年)。
水墨画と水彩画を融合させたような
不思議な魅力をもつアニメーション。
もちろん原作は日本最古の物語と言われる
『竹取物語』である。
映画では草や木、花が丁寧に表現され、
日本の自然の豊かさを味わうことができる。
この作品の中で、自然をいとおしみ、
自然と共に生きる人びとの姿が描かれている。
私たちの先人はそうやって自然の美を
時を超えて次世代へとつないできたのだ。
映画の主題歌である『いのちの記憶』
その歌詞の一節。
いまのすべては 過去のすべて
今ある遺産は過去から引き継がれてきたもの。
映画のラストシーン。
月からの使者がかぐや姫に
汚れたこの地から月へ戻るようにと告げる。
しかしかぐや姫は
それを認めようとはしない。
「この地は汚れてなんかいないわ!
この地に生きるものはみんな
彩(いろどり)に満ちて!
鳥、虫、けもの、草木花、人の情・・」
そう、かぐや姫は信じている。
この地に住む人の情は決して汚れていないと。
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竹林の小径を歩きながら、
ふと気がつくと『いのちの記憶』を口ずさんでいた。
いまのすべては 過去のすべて
いまのすべては 未来の希望 ・・・