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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.71

公開日
2019/06/01
更新日
2019/06/01

校長室より

ふらりと立ち寄った夕方の図書室。
女子生徒が一人、机に向かっていた。
黙々とノートに何かを書き写している。

その情景が遠い日の記憶を思い起こさせた。


  📔    📔    📔    📔


それは私が中学生の時の記憶。

いつもの昼休み。
教室の片隅にお決まりの仲間数人で集まり、
人の噂話や愚痴などで盛り上がっていた。
私はその中の一人だった。

教室のもう一方の片隅に
一人で教科書を開いて勉強している男子生徒がいた。

 S君 − 昼休み、彼はいつも一人で勉強していた。

私の仲間の一人が彼を指差して
聞こえよがしに私たちにささやいた。

「ガリ勉・・・」

そう言った後、クスクスと笑い始めた。
つられて、他の仲間たちも笑った。

私も笑った。
いや、笑いたかったわけではない。
笑うことで、仲間たちに同調していることを
周囲に示したかっただけ、というのが本心だった。

笑いながら、しかし私は心のどこかで
虚(むな)しさを感じていた。

昼休み、何となく仲間同士集まり、
何となく噂話をして、
何となく周囲に合わせて笑い、
何となく安心している自分。

集団に属していることを
確認したいだけの日々。

一方で集団などどこ吹く風、といった空気をまとい
机に向かって黙々と勉強しているS君。

本来なら多数に所属することで
優越感を味わうはずなのに
その時の私はS君の姿に劣等感を抱いていた。


ある日の放課後、
図書室で一人勉強するS君を見かけた。
私は周囲に誰もいないことを確認して、
そっと彼に問いかけた。

「一人で寂しくないの?」

彼は不思議そうに私の顔を見つめた。
そして、ふっと笑みを浮かべてこう答えた。

「一人でいたい時に一人でいるだけ。
 無理して誰かと一緒にいる方が疲れるし。」

 〜 無理して誰かと一緒にいる 〜

まさに私の心の底を覗(のぞ)かれた気分だった。

その時、私は国語の授業で習った
「孤高」という言葉の意味が
少しだけわかったような気がしていた。
言葉は似ていても
「孤独」とは全く異なる、と先生が教えてくれた
その言葉の意味が。


  ✏️    ✏️    ✏️    ✏️


砧中学校、放課後の図書室。

女子生徒の姿があの日のS君と重なった。

私は彼女の邪魔にならないよう、
そっと図書室を後にした。