校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.78
- 公開日
- 2019/07/20
- 更新日
- 2019/07/20
校長室より
世界的コンピューター企業アップル社。
この企業のロゴマークはかじりかけのリンゴである。
このリンゴは果たして何を意味するのであろうか?
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歴史から消された一人の人物がいる。
彼の名はアラン・チューリング
イギリスの天才数学者。
1939年第二次世界大戦勃発(ぼっぱつ)。
イギリスはドイツとの戦いに苦戦を強いられていた。
その苦戦の最大の原因が
ドイツが開発した暗号機エニグマの存在だった。
エニグマ、ドイツ語で「謎」を意味する。
暗号解読のためのパターンは全部で
150000000000000000000通り。
人間の力で計算すると10人でも2000万年かかる。
不可能と言われたエニグマ解読を目指し
イギリス政府は各分野の天才たちを呼び集めた。
その一人がアラン・チューリングであった。
「機械に対抗できるのは機械しかない」
彼は1台の機械を開発する。
チューリング・マシン
人間の能力をはるかに凌(しの)ぐ計算力で
マシンは不可能と言われたエニグマ解読に挑む。
そして1941年、ついにエニグマが解読される。
しかし、解読成功をドイツが知ることで
暗号パターンを変えられることを怖れたイギリスは
この事実をひた隠しに隠す。
そして1945年第二次大戦終結後も
チューリングたち暗号解読メンバーは
その事実を一切口外しないよう強制される。
チューリング・マシン
現在、私たちはそれを「コンピューター」と呼ぶ。
戦後もチューリングは独自の研究を続ける。
彼が次に着手したのは
人間の脳と同じ機能を持った機械の設計。
「電子脳」と言われるこの研究、
当時の研究者たちからは全く見向きもされなかった。
それどころか彼は「変わり者」のレッテルをはられ、
次第に社会から孤立していく。
もしもチューリングがエニグマ解読の成功者として
世間に事実が公表されていたとしたら、
果たして彼の研究は軽視されていただろうか。
1954年彼は自宅において
孤独の中、41年の生涯を閉じる。
彼が研究を続けた「電子脳」。
そう、チューリングこそが
人工知能(AI)の父と呼ばれるその人なのである。
彼の名誉が回復されたのは、
その死から半世紀以上経った2013年であった。
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亡くなったチューリングの部屋の中には
かじりかけのリンゴが一つ転がっていたと言う。
アップル社のロゴマークがチューリングを称え、
彼の自宅にあったリンゴをデザインしたという話が
「都市伝説」として語られている。
今週イギリス中央銀行は
2021年から発行される新しい50ポンド紙幣に
肖像画としてアラン・チューリングを採用すると発表した。
※「コラム」欄に「余録」を掲載しました。
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