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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.79

公開日
2019/07/27
更新日
2019/07/27

校長室より

人生には何をやってもダメな時期がある。

  〜 なんで自分だけが 〜

周囲はみんな、うまくいっている人ばかり。
劣等感、嫉妬(しっと)、焦(あせ)り・・・
マイナスの感情が次々と襲ってくる。

でも、ダメな時期だからこそ出会える人がいる。
そんな時期に出会えたからこそ、
その人は生涯忘れられない友となる。

『横道世之介』

吉田修一の小説。
時代小説ではない。
れっきとした青春小説。

1980年代、九州から大学入学のために
上京してきた横道世之介。
ちょっと天然で、空気が読めない。
でも世之介といるとなぜかホッとする。
とにかくいい奴なのである。

世之介と出会った人たち。
みんなそれぞれ人生うまく行ってる訳ではない。
世之介と出会ったことで
人生が劇的に好転する訳でもない。

でも何年か経った後、
ふと振り返ってみると
世之介に出会えて良かった、と思える。

ほんわかとした気持ちで読んでいた小説が
途中で突然大きく動き出す。
今まで見えていた世界がガラッと変わってしまう。
そして、無性(むしょう)に世之介に会いたくなる。

そう、大切な友というは
いつも一緒にいて
つながっている必要なんてない。

今は、どこでどうしているか
全くわからないけれど
思い出の片隅の
そのど真ん中に
笑顔でいてくれる
それが自分にとっての大切な友。

行き詰まりを感じた時に
アイツだったら
何て声をかけてくれるかなぁ、と
ふと思い浮かべてしまう存在、
そんな友に一人でも出会えたら、
人生まんざらでもないかもしれない。


  ☀️    ☀️    ☀️    ☀️


私が大学4年生だった秋のこと。
就職試験に落ち、
意気消沈して下宿へと戻ったあの日。
同じ下宿の九州出身のアイツが
試験に落ちた私に同情して涙を流してくれた。
当の本人である私は泣いていなかったのに。

そして「元気出しなよ」と言いながら
私にチャーハンを作ってくれた。
お世辞にも美味しいとは言えないチャーハン。
水で喉(のど)の奥に流し込みながら
やっとの思いで完食した。

アイツはそんな私に
「おかわりあるよ」と笑顔を見せた。

アイツ、今、どこで
何してるんだろなぁ。

小説を読み終えた時に
不器用な手つきで
チャーハンをつくるアイツを思い出していた。

人生のダメな時期、万歳!
人生のスランプ、万々歳!

※「コラム」欄に「余録」を掲載しました。
 合わせてお読みください。