校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.88
- 公開日
- 2019/09/22
- 更新日
- 2019/09/22
校長室より
1970年4月11日
アメリカ・ケネディ宇宙センターから
月面を目指して有人宇宙船が打ち上げられた。
アポロ13号。
打ち上げ時刻は13時13分。
そして2日後の4月13日、
月を目前にして、突然船体に爆発が起きる。
その爆発でメインエンジンが作動停止。
3人の宇宙飛行士を乗せたアポロ13号は
絶体絶命の危機に陥ることとなった。
「13」という数字は欧米諸国の多くで
不吉な数字と信じられてきた。
13号、13時13分、13日。
不吉な運命を背負った宇宙船
しかしこの最悪の状況から
奇跡の生還に向けて何千もの人たちによる
英知を結集した救出作戦が繰り広げられる。
フライトディレクターによる帰還方法の決定、
システムエンジニアによる高度な軌道の計算、
エンジン設計者や開発者による
予備エンジンの耐久可能性の判断。
誰か一人でも計算や判断を誤れば、
アポロ13号は決して地球には戻ってこれない。
宇宙センター管制室と
宇宙船内の飛行士たちとの緊迫の時間。
生還に向けて一つ一つの問題が
迅速に、そして確実に解決されていく。
しかし帰還軌道に乗ったと安堵したのも束の間、
更なる難問が発生する。
想定外の措置をとってきたことにより、
船内に二酸化炭素が充満してきたのだ。
排出濾過(ろか)装置が機能しない。
このままでは乗組員たちは窒息してしまう。
ここに一人の男が登場する。
ケン・マッティングリー。
彼は本来アポロ13号に搭乗予定だった。
しかし打ち上げ2日前に、
風疹感染の疑いが生じ、
乗組員から外されたのである。
「不運の男」マスコミは彼をそう呼んだ。
気落ちした彼は、それでも
仲間たちの成功を見守ろうと
たまたま管制室に居合わせたのだった。
宇宙飛行士、窒息の危機。
管制室の誰もが
成す術(すべ)もなく茫然となっていた。
その時、マッティングリーは思い出していた。
これまで自分たちはあらゆる訓練をしてきた。
想定される危機を回避するためのあらゆる訓練、
二酸化炭素が充満した場合の訓練・・・
そうだ! 濾過装置が故障した時の対処方法も
かつて一度だけシミュレーションしたはずだ!!
船内に残ったありあわせの道具で
簡易濾過装置を作ったではないか。
ビニール袋、ボール紙、ガムテープ……… 。
マッテイングリーの記憶を頼りに
管制室からの指示が出される。
船内の飛行士たちは
その指示に従い、
船内に残る道具を使い、
即席の濾過装置を作る。
少しずつ下がっていく二酸化炭素の濃度。
胸をなでおろす管制室の面々。
その後も大気圏突入時の角度の計算や
帰還時の気象対策など
多くのスタッフたちが全力を傾ける。
決して一つのミスも許されない。
そして、船体爆発から87時間後、
アポロ13号の乗組員は無事地球に帰還する。
「成功した失敗」
「栄光ある失敗」
失敗からいかに立ち直るか、
アポロ13号の教訓は
今も私たちに「失敗から学ぶ」姿勢を
教えてくれている。
不吉な数字と言われた「13」。
実は13号が13時13分に打ち上げられたのは
決して運命的なものではなかった。
科学の最先端にいる者として
古い迷信に立ち向かう。
アポロ計画のスタッフたちは
敢えて打ち上げをその時間に設定したのだ。
そして、「不運の男」ケン・マッティングリー。
彼はその2年後に打ち上げられたアポロ16号に
宇宙飛行士として搭乗を果たしている。
「今もまだ風疹は発症していないよ」
80歳を過ぎた彼は笑ってそう語った。
※ NHK BSプレミアム「アナザーストーリーズ」
『アポロ13号の奇跡 緊迫の87時間』
2019年7月16日放送より