校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.92
- 公開日
- 2019/10/19
- 更新日
- 2019/10/19
校長室より
『ALWAYS 三丁目の夕日』
昭和30年代の東京 下町を舞台に
その時代、そこに暮らす人々の
温かな触れ合いを描いて大ヒットした映画である。
昭和37年生まれの私にとっては
遠い日のかすかな記憶を思い起こし、
「あの頃は良かった」と
何度観ても涙する映画である。
ところがである。
戦前に生まれた方に
この映画の感想を聞いたところ
意外な答えが返ってきた。
「映画は良かったとは思うが・・・
あの時代はそんなにいい時代でもなかったよ」
🌇
「記憶」について考えてみた。
先週10月13日に放送された
NHKスペシャル『東京ブラックホール』
1964(昭和39)年の東京を
当時の記録映像をもとに振り返る。
この年はそう、東京五輪の年である。
1964年は日本が戦後の復興を果たし、
世界の先進国の仲間入りをし、
大きく飛躍した年として記憶されている。
本当にそうだったのか?
番組では、私たちの記憶の中から
すっぽりと抜け落ちてしまった
1964年の負の側面に迫っていく。
公害による大気汚染が人々を苦しめる。
ネズミやハエ、蚊の大量発生。
ゴミの大量廃棄に汚物の海洋投棄。
そういった東京の影を覆い隠すかのように
急ピッチで進められる公共工事。
その工事現場での事故の多発。
東京五輪自体の記憶もまた
いつの間にか美化されている。
"東洋の魔女"伝説として語られる
女子バレーボールの金メダル。
汗と涙の感動物語・・・
いや、実際は金メダルへの期待から
五輪を前に引退を希望していた選手たちに対し
世間から浴びせられた多くの誹謗中傷があったのだ。
優勝を決めた直後の監督に笑顔はなかった。
しかし、いつしか
そういった記憶は遠くへ追いやられ、
経済発展や感動の記憶によって
あの時代は語られるようになっていった。
🏐
「記憶」とはいったい何だろう?
2019(令和元)年10月13日。
その番組を観ている途中で
ニュース速報のテロップが流れた。
〜 W杯ラグビー、日本がスコットランドを破り
史上初のベスト8入り達成 〜
そしてその画面の端では
「台風19号 豪雨による被害情報」が表示されていた。