校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.98
- 公開日
- 2019/11/30
- 更新日
- 2019/11/30
校長室より
江戸から明治へ。
鎖国が終わり、多くの外国人が日本へとやって来た。
日本人の風習を知らない外国人は
平気で靴を履いたまま座敷へと上がる。
「土足で踏みにじる」
日本人にとっては受け入れ難い行為。
しかし生活習慣の違いから
なかなか改められない。
そこで一人の仕立て職人が考えた。
靴の上から履ける履き物を作れないかと。
「スリッパ」の誕生である。
👟👟
かつて私が東南アジアを旅した時の出来事。
マレーシアのイスラム寺院を訪れた時、
私の前に寺院に入ろうとした
日本人の男女二人連れが
警備員に立ち入りを拒否されていた。
猛然と抗議する男性。
頑として認めようとしない警備員。
実は連れの女性のミニスカートが問題となっていた。
神聖な場所では極端な肌の露出は許されないのだ。
この時の警備員の立場に立つと
「土足で踏みにじられる」行為だったのかもしれない。
結果的には寺院から貸し出された
腰に巻く布を着けて二人は入場を認められた。
私的なものが公的な領域を侵食し始めている。
本来なら公的な場では振る舞うべきでない行為。
ラッシュ時の電車内での食事
映画館での上映中のおしゃべり
公道でのゴミ捨て
あおり運転
歩きスマホ・・・
私が敬愛する哲学者ハンナ・アーレントは
私的領域の公的領域への拡大に警鐘を鳴らし続けた。
公(おおやけ)の場での私的な振る舞い。
それを当然のことと行動する人たち
それを見て見ぬふりする人たち
そんな社会の行き着く先は ……… ?
👞👞
再び「靴」について。
飛行機に乗った時に
座席に着くなり靴を脱ぐ人の割合は
日本人が圧倒的に多いと言われる。
確かに靴を脱ぐとリラックスできる。
しかし、飛行機内は公的な場である。
もし、あなたの隣に外国人が座っていたとして
あなたが靴下だけになったとしたら、
間違いなく不快感を示すだろう。
なぜ?と思う人は想像してみよう。
例えば電車のボックス席で
あなたの向かい側に座る知らない人が
突然、靴を脱いでをあなたの座る横に
足を投げ出してきたとしたら。
きっとあなたは気持ちの中で
「"土足"で踏みにじられた」と感じるだろう。
私も飛行機に乗った時には
特に長時間のフライトではリラックスしたい。
それでも決して靴下だけになることはしない。
そんな時のために必ず持参する物がある。
その物とは・・・
一人の仕立て職人が土足を防ぐために発明した物。
そう、「スリッパ」である。