校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.137
- 公開日
- 2020/08/29
- 更新日
- 2020/08/29
校長室より
No.137【灰色の男たち】
40年前、四国から上京した私が
都会生活で最も恐怖に感じたのは
ラッシュアワーの光景であった。
すし詰めの満員電車。
電車が駅に到着するたびに
猛然と走り出す乗客たち。
その形相には鬼気迫るものがあった。
都心の電車は4〜5分間隔で運行している。
それなのに一本でも早い電車に乗ろうと
電車の乗降口に殺到する人たちの姿を
当時私は不思議な思いで眺めていた。
「4〜5分早くても大して変わらないのに」
🚃
ミヒャエル・エンデの小説『モモ』。
その中に「灰色の男たち」が登場する。
彼らは人々に時間を節約させ、
その節約させた時間を秘かに盗んでいる。
人々は大切な時間が
盗まれていることにも気づかず
せっせと時間の節約に努めている。
近所の人とのおしゃべりや
ペットのインコとふれあう時間などは
時間の浪費だと切り捨てていく。
時間を節約しても
人々は決して幸せになれない。
いつも時計を気にしながら
時間に追われる生活を強いられる。
そして、みんな怒りっぽくなり、
落ち着きのない人間になっていく。
世の中が効率だけを優先した時、
人々からは笑顔が失われていく。
交通機関が発達し、
家電製品が進化し、
IT化が広まった現代においても
一分一秒を削ることが目的となり、
私たちはさらに忙しくなっているのだ。
🖥️
40年経った今、
私はすっかり都会の生活に慣れた。
出かける時はスマホを取り出し
交通情報アプリを開く。
目的地までの最も早い経路を
検索するのが習慣となっている。
先日もやっとのことで
電車に間に合った。
これで最も早く目的地に着ける。
息を切らしながら
私はふと気になった。
もしこの電車に乗り遅れたとして
到着にどれほど差が生じるのだろう?
一本後の電車を検索してみて
私はため息をついてしまった。
一本後の電車での到着時間、
その差は4分であった。
いつの間にか私にも
「灰色の男たち」が
忍び寄って来ていたのだ。