校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.145
- 公開日
- 2020/10/24
- 更新日
- 2020/10/24
校長室より
No.145【「短調」のエール】
朝の連続テレビ小説『エール』。
先週の放送は異例の内容だった。
ビルマ(現ミャンマー)での日本軍の
壮絶な戦闘場面が延々と続く。
視(み)ているのは朝ドラではなく
戦争映画ではと錯覚してしまうほどだ。
多くの視聴者にとって
朝ドラは一日の活力源でもある。
しかし先週の内容は全く逆だった。
"エール"をもらうどころか
悲壮感と無力感に打ちのめされる
そんな朝のスタートになった人も
多かったのではないだろうか。
(※ 筆者は週末の再放送で視聴)
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朝ドラ『エール』主人公のモデルは
戦中戦後に活躍した作曲家
古関裕而(こせき ゆうじ)。
甲子園の高校野球でもお馴染みの
『栄冠は君に輝く』など
数多くの応援歌を手がけている。
しかし古関は戦時中、
戦意高揚のための曲を作っていた。
『露営の歌』や『若鷲の歌』など
戦地へと赴(おもむ)いた若者たちが
自らを鼓舞するため口ずさんだ歌である。
古関が作曲したこれらの曲には
ある傾向が見られると言う。
戦意高揚の曲でありながら
曲調は短調、つまり
どこか哀愁を帯びているのだ。
改めてこれらの歌を聞いてみた。
私が幼かった頃、
近所の大人たちがよく口ずさんでいた
戦意高揚のための歌。
その勇ましい歌詞とは裏腹に
二度と故郷の土を踏むことも叶わない
若者たちの悲壮感が漂ってくる。
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戦後、古関は曲作りから遠ざかる。
自分が書いた曲が多くの若者たちを
戦いに駆り立てたのではないかと
自らを追い込んだのである。
その古関に転機が訪れる。
ある手記の映画化にあたり、
古関に作曲の依頼が来たのだ。
原爆が投下された長崎で
自身が被爆し重傷を負いながらも
懸命に被爆者の治療にあたった
一人の医師の手記。
その手記と出会うことで、
再び曲作りを決意する古関。
そしてできた歌が
『長崎の鐘』である。
廃墟の中から立ち上がり
希望に向かって歩き始めた
長崎の人々への応援歌。
その曲は「短調」から始まるが、
途中から「長調」へと
曲調が大きく転換している。