校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.151
- 公開日
- 2020/11/28
- 更新日
- 2020/11/28
校長室より
No.151【空気に水を差す】
私が乗る朝の通勤電車。
いつも同じ時間に乗車するため
乗客の顔ぶれもほぼ同じである。
気温が下がるとの予報を受けて
その朝、私はこの冬はじめて
マフラーを首に巻き、
コートを羽織って出勤した。
しかし、電車に乗った途端に
私は気まずさを覚えていた。
車内のいつもの顔ぶれは誰一人
マフラーもコートも着ていないのだ。
自分一人だけが
季節はずれの格好をしている、
そう思うと私は急に周囲の視線が
気になり始めた。
さりげなくマフラーとコートを
脱ごうとしたその時であった。
発車間際の電車に
一人の男性が駆け込んできた。
私はその男性を見て驚いてしまった。
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アンデルセン童話『裸の王様』
衣装好きの王様が
詐欺師に騙(だま)される。
愚か者には見えないという衣装、
実は裸のままなのである。
しかし王様は
愚か者と思われたくないために
自分は衣装を着ていると言い張り、
国民の前でパレードを行う。
家来も国民も
王様には逆らえず
また自分が愚か者と思われないため
その衣装を誉め称(たた)えるのだ。
しかし一人の子供が
王様を指して言う。
「王様は裸だ」
その言葉に王様も家来も
そして国民も我にかえった。
誰もが逆らえない空気に
一人の子供が "水を差す" お話。
👑
電車に駆け込んできた男性を見て
私は驚いていた。
その外国人男性の服装は
半袖Tシャツに半ズボンだったのだ。
彼は鼻唄を歌いながら
空いていた私の隣席に座った。
「真冬」と「真夏」の格好で、
並んで座る私たちの姿は
「秋」の格好の乗客たちに
果たしてどう映っていたのだろう。
それでも「真夏」姿の男性は
その視線を全く気にする様子もなく
鼻唄を歌い続けている。
「真冬」姿と「秋」姿の
気まずい空気が漂う電車内で
「真夏」姿の男性の登場は、
車内の空気を変えてしまった。
まさに "水を差した" のである。
いつの間にか
周囲の視線が
気にならなくなっていた私。
電車を降りるまで
マフラーもコートも
身につけたままでいた。