校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.160
- 公開日
- 2021/01/23
- 更新日
- 2021/01/23
校長室より
No.160【未知なる道へ】
生まれて初めての高校入試、
国語の問題で悪戦苦闘したことを
私は今でも鮮明に覚えている。
「それでは始めてください」
監督者の合図とともに
受験生は一斉にページをめくる。
私も不安と緊張の中、
最初の問題と向き合った。
第1問は小説からの抜粋、
読書好きの私が得意としていた
物語文の読解であった。
しかしこれまでの模擬試験とは
勝手が全く違っていた。
その文章がどうしても
私の頭の中に入ってこないのだ。
それは奇妙な物語だった。
現実世界ではあり得ない展開。
作者が何を言いたいのか
ほとんど理解できない。
これまでの解き方が通用せず
私は未知の問題を前にして
次第に焦り始めていた。
💮
前例のない大学入学共通テストが
先週、全国の会場で実施された。
問題のページ数が増え
出題傾向も大きく変わったと聞く。
これまでのやり方では通用しない
新たなテストを前にして
戸惑いながらも受験生たちは
立ち向かわなければならなかった。
近年、高校入試も大学入試も
暗記中心からの脱却を目指し、
受験生にその場で思考させる問題が
出題される傾向にある。
先の見えない時代だからこそ
過去の知識ではなく、
新たな知見が求められる。
これからの時代に求められる力は
未知のものに対する適応力だと
私は確信している。
⌛
再び話は私の受験時に戻る。
全教科の試験が終了した後、
受験会場のあちらこちらから
国語の物語文が難しかったと
私と同様の感想が聞こえてきた。
自分だけではなかったのだと
少しホッとしながらも
私は出題された小説のことが
頭から離れなかった。
これまでの自分の読書では
一度も体験したことのない
未知なる物語の構造。
それでもその作家の小説を
近いうちに必ず読破しようと
私は受験会場を後にしながら
固く心に誓っていた。
そして高校入学後、
私はその作家の本を
買い求めることとなった。
これが私とその作家、
"安部公房" との出会いである。
道にこだわりすぎるものは
かえって道を見失う
〜 安部公房 〜