校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.165
- 公開日
- 2021/02/27
- 更新日
- 2021/02/27
校長室より
No.165【一人になる訓練】
地球最後の恐竜は
自分が最後の恐竜だと
知っていたのだろうか?
オランダの児童文学が原作の
映画『恐竜が教えてくれたこと』
11歳の主人公サムは、
四人家族の末っ子である。
父母と兄との仲良し家族。
それでもサムは不安を抱えている。
地球最後の恐竜と同じように
家族の中で一番年下の自分が
最後まで生き残ることになる。
いつの日か訪れるであろう
一人きりの生活、
果たして自分は耐えられるだろうか。
そこでサムは考えた。
今のうちから訓練をして
一人での生活に慣れようと。
サムは家族には内緒で
毎日4時間を訓練として
一人きりで過ごすことにした。
一人になる訓練中のある日。
干潟で過ごしていたサムは
泥の中で身動きがとれなくなる。
次第に潮が満ちてくる。
ひとりぼっちのサムは
ひとりぼっちの恐怖に襲われる。
🌊
自分自身の話で恐縮だが
私は中学生の頃から
一人暮らしに憧れていた。
大学進学先を選ぶ時も
都会での一人暮らしを優先した。
「早く起きなさい」
「いつまで起きてるの」
上京してからの私は
誰からもガミガミ言われることなく、
自由を謳歌(おうか)した。
大学が休みの日には
好きな時間に起きて
好きな時間に眠ればいいのだ。
しかし不規則な生活がたたり、
しばらくして体調を崩してしまった。
何日も熱が下がらない。
一人きりの生活では
いくら待っていても
温かい食事は出てこない。
額(ひたい)の上の冷やしたタオルを
替えてくれる人もいない。
私は都会の片隅で
熱にうなされながら
ひとりぼっちの恐怖に襲われた。
🏙️
映画の話に戻る。
窮地に陥ったサムを
干潟から救い出してくれたのは
海辺のあばら家に住む老人。
妻に先立たれた老人は
一人きりで暮らしていた。
サムはその老人に尋ねる。
「一人で寂しくはない?」
老人は静かに答える。
「楽しかった思い出が
胸の中にはたくさんある」と。
そして恐竜、いや老人は
こう教えてくれたのだ。
できる限り思い出を集めろ、
誰かと過ごした瞬間の。