校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.182
- 公開日
- 2021/06/26
- 更新日
- 2021/06/26
校長室より
No.182【52ヘルツのサイン】
「相談したいことがあります」
放課後、一人の女子生徒から
私は突然声をかけられた。
その日の放課後には
重要な会議が控えていた。
遅れるわけにはいかない。
「この後、会議があるんだけど」
そう答えるしかできなかった私。
その生徒は何も言わずに
私に背を向けて立ち去った。
心の片隅に
引っ掛かったままの
遠い日の記憶である。
✏️
今年の本屋大賞に選ばれた
『52ヘルツのクジラたち』
(町田そのこ 著)
52ヘルツの周波数を発する
世界で1頭だけのクジラ。
周波数が異なるために
他のクジラにその声は届かない。
物語は声なき声を発する人たち、
そしてその声なき声を
受けとめようとする人たちの姿を
ていねいに描き出す。
物語の中で
二人の教師が登場する。
子どもの声なき声を
受けとめることができず、
逆に子どもを追い込んでしまう。
そんな教師たちの姿が
かつての自分と重なった。
無言で白紙の答案用紙を
提出してきた生徒がいた・・・
授業中窓の外を眺めながら
涙を流す生徒がいた・・・
私に背を向けて
立ち去った生徒をはじめ
受けとめることができなかった
数々の52ヘルツのサインが
本の行間からあふれ出してきた。
🐋
52ヘルツの周波数を発するのは
世界で1頭だけの孤独なクジラ。
しかし本のタイトルは
「クジラたち」となっている。