校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.187
- 公開日
- 2021/07/31
- 更新日
- 2021/07/31
校長室より
No.187【あの日見た空】
砧中3年生が
取り組んでいる美術作品、
「思いをうつす砧中の空」
生徒個々が思い出の空を撮影し、
その写真をモチーフにしながら
思い出の背景も添えて
水彩画へと仕上げていく。
授業中に窓から見えた空や
部活動休憩時に見上げた空。
昼休みの校庭で友と見た空に、
毎日見慣れた帰宅時の空。
同じ砧中の空なのに
一人ひとりの心象風景により、
一人ひとりの物語が生まれる。
同じ日、同じ時間に
同じ空を見ていても
いつしかその風景は
自分だけの大切な思い出として
心に刻まれていく。
🖼️
私にとっての思い出の空、
それはJR亀戸駅前にある
立体歩道橋から眺めた夕焼け空。
教師になって最初の勤務校は
江東区亀戸にある中学校。
夢を抱いていた社会人1年生、
しかし5月の連休明けには
大きな壁にぶつかることになる。
私の授業だけ
教室内が落ち着かない。
私語が交わされ
立ち歩く生徒までいた。
注意すればするほど
生徒たちとの距離は開いていく。
4月の歓迎ムードは束の間で
気がつけば生徒との関係がこじれ
不穏な空気が漂い始めていた。
教室へ向かうことも
朝出勤することさえも
気後れする日々が続いていた。
6月も後半の夕暮れ、
その日も挫折感を抱いたまま
疲れ果てて帰路へと着いた。
亀戸駅前の立体歩道橋、
その歩道橋上を渡りながら
何気なく取り出した通勤定期券。
半年定期で期限は9月30日。
果たして私はこの期限の日まで
仕事を続けていられるだろうかと
その場に立ちつくしてしまった。
ふと夕焼け空が目に入った。
梅雨の晴れ間の夕焼け空。
しばらく夕焼け空を眺めていると
今までとは異なる感情が湧いてきた。
9月30日までなんて
そんな先まで考えなくていい、
まずは明日もう一度だけ
この夕焼け空を見てみよう。
そう、明日もう一日だけ
やれる事をやってみよう。
その明日が一日一日積み重なり
亀戸の中学校には7年間勤務した。
それからも一日一日を積み重ねて
今、私は砧中学校にいる。
🌇
生徒たちの作品を見ながら
あの日の夕焼け空が
記憶の彼方から呼び起こされた。
明日が積み重なって
40年近くの歳月が流れた今、
もう一度あの立体歩道橋から
夕焼け空を眺めてみたいと思った。