校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.195
- 公開日
- 2021/09/25
- 更新日
- 2021/09/25
校長室より
No.195【正義の名のもとに】
人気のアニメ『鬼滅の刃』。
舞台は大正時代。
日本が近代化へと進む中、
「鬼」と呼ばれる魔物たちが
人々を脅(おびや)かす。
悪としての鬼を
退治する正義の主人公。
誰もが理解しやすい
「勧善懲悪」の物語・・・
と思いながら観ていたら
倒され消滅していく鬼たちの
人間だった頃の回想シーンが
切なく描かれていて
思わず胸が熱くなった。
「鬼」=「悪」というイメージが
大きく揺さぶられた。
👹
話はフランスへと飛ぶ。
1789年のフランス革命。
人民によって処刑された
王妃マリー・アントワネット、
そして夫である国王ルイ16世。
有名な歴史的事件の中で
あまり語られていないのが
二人の息子ルイ17世である。
革命が起きたのは彼が4歳の時。
その後は両親から引き離されて
身体的、そして心理的な
虐待を受け続けることになる。
「良き人民」となるために。
病におかされても
劣悪な環境下で放置される。
人民はその事実を知りながらも
見て見ぬふりをし続けた。
数年後ルイ17世は病のため
その短い生涯を終える。
享年10歳。
王制は「悪」であり、
倒されるべきものとされた。
たとえ幼い子どもであっても。
人権宣言の名のもとに。
自由・平等・友愛の名のもとに。
🇫🇷
話は再び「鬼滅の刃」へ。
物語前半、主人公は藤の牢獄において
異形の鬼と戦うことになる。
何本もの腕をもつ「手鬼」である。
多くの仲間たちを死に追いやった
まさに「悪」の権化。
激闘の末、主人公に倒され、
その命が尽きようとする時、
「手鬼」が人間だった日々が
走馬灯のように描かれる。
幼かった頃、臆病だった少年は
兄に手をつないでもらいたくて
兄の背中を追いかけていた。
「兄ちゃん、手ぇつないでくれよ」
「しょうがねぇな、怖がりで」
優しかったその兄を
死に追いやったのは
鬼となった自分だったことを
記憶の彼方から思い出す。
滅びゆく「手鬼」のその手を
最期にそっと握ったのは
今は亡き兄ではなく、
正義のために鬼と戦う
主人公の炭治郎であった。