校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.196
- 公開日
- 2021/10/02
- 更新日
- 2021/10/02
校長室より
No.196【予想外の感情】
以前勤めていた学校で
同僚だった音楽の教師が
ある失敗談を私に話してくれた。
授業で鑑賞した
名曲『口笛吹きと犬』。
観賞後に生徒がその感想を書く。
この曲は明るく軽快なテンポで
心がウキウキするイメージ、
そんな感想を期待していたところ、
一人の生徒が予想外の感想を
書いて提出してきたと言う。
「悲しくて寂しくなる」
放課後、その生徒を呼び、
感想はまじめに書くようにと
注意をしたそうだ。
しかしその生徒は
首を横に振った。
この曲を鑑賞していると
かつて自宅で飼っていた
ペットの犬の事を
どうしても思い出してしまう。
毎日一緒に散歩していた愛犬。
今はもうこの世にはいない
その犬との日々を思い出すと
悲しさと寂しさが
思わず込み上げてきたという。
「明るく軽快で」が正解なのか
「悲しく寂しい」は不正解なのか
一人一人が抱く感情を
誰かが評価することはできない。
🐶
いつの間にか多くのテレビ番組で
テロップが画面の端に
表示されるようになっていた。
視聴者の感情を誘導するように
先取りした言葉が流れていく。
「感動!」「歓喜!」「悲痛!」
ここは感動するところですよ、
一緒に喜ぶべきシーンですよ、
悲しいですよね、
泣きたいですよね・・・。
ライターの武田砂鉄氏は危惧する。
この風潮に慣れきってしまうと
人は自分で感じることを
あきらめてしまうのではないかと。
私も同様な思いを抱いてきた。
「泣ける映画」と評判の映画を観て、
どうしても泣けない時がある。
「泣ける」と言われると
「泣けない」自分がおかしいのではと
つい不安になってしまう。
いやむしろ、先に「泣ける」と
言われていなかった方が
「泣けて」いたのかもしれない。
できれば「泣ける」かどうかは
自分の感性を信じたいと思う。
😢
このコラムを書くにあたって
『口笛吹きと犬』の曲を
改めて聴いてみた。
確かに明るく軽快で
心がウキウキするイメージ。
その時、ふと思い出した。
かつて我が家で飼っていた愛犬と
一緒に散歩していたあの頃を。
もう二度と戻ることのない
あの日々のことを。
その思い出に浸っていると
「明るく軽快な」はずの曲に
予想外の感情がわいてきた。