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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.199

公開日
2021/10/23
更新日
2021/10/23

校長室より

No.199【心の会計】

大学生の時、
生まれて初めてのアルバイトで
1万円の報酬を得た。
私はその1万円札に
なかなか手がつけられなかった。
汗水たらして得た収入を
無駄遣いしたくなかったのだ。

同じ時期に
上京してきた親戚の叔父さんから
1万円のお小遣いをいただいた。
思わぬ収入に喜ぶ私。
気がつけばわずか数日で
その1万円札を使い果たしていた。

同じ1万円札でありながら
私の心の中では
その重みが全く異なっていたのだ。

👛

「心の会計」という言葉がある。
同じ金額でありながら
人の心の持ちようで
その価値が違って見える。

普段は昼食代で2千円だと
少しためらう値段だが、
旅行中だとなぜか払ってしまう。
「旅行だからいいか」と考えて。

1万円は1万円、
2千円は2千円。
それでも状況が変わると
私たちの心も変化する。
「贅沢」と感じたり、
「手頃」と感じたり。

電子マネーが広まりつつある今、
スムーズな支払いの仕方が
スマートだと見なされている。
レジでの支払いの際に
財布の中の小銭を探すのは
いつの頃からか
時代遅れと見られるようになった。

タッチしてピッは
確かにスマートではあるが、
支払いに対するハードルが
ぐんと下がったように感じている。
「心の会計」として見れば
財布からお金がなくなっていく、
そんな感覚が薄らいでいるからだ。

タッチしてピッ、タッチしてピッ・・・
気がつけばいつの間にか
残高を超えてしまうことさえある。

💳

学校での宿泊行事には
お土産購入の時間がある。
まずはお小遣いの上限を定め
残金と照らし合わせながら
どの商品を購入するかを考える。

以前ある生徒は残金の500円と
買いたい商品800円の間で
悩みに悩んでいた。

そして、その直前に
買い物かごに入れた
300円の商品を棚に戻し、
800円の商品をかごに入れた。

そこで私と目が合うと
少しはにかみながら
こうつぶやいた。

「どっちも欲しかったけど・・・」