校長室の窓から〜『富岳の眺め』 No.59
- 公開日
- 2019/03/03
- 更新日
- 2019/03/03
校長室より
私がまだ教師経験が浅かった頃の話。
ある日の放課後、
一人の女子生徒が私に話しかけてきた。
「うちのクラスって発言する人が少ないんですよね。」
私は彼女が何を言おうとしているのか理解できず
深くも考えずに答えていた。
「気合いが足りないんだよ、気合いが。」
彼女は不満そうに私の顔をじっと見つめた。
「気合いだけじゃないと思うけど・・・」
そう呟(つぶや)くと、そのまま教室から出て行った。
それから数年後のこと。
たまたま自宅で学園ドラマを観ていた。
中学校に海外から男子の帰国生徒が転校してくる。
英語の授業中、先生が質問する。
質問を理解できたのはその帰国生徒だけ。
彼は流暢(りゅうちょう)な英語でスラスラと答える。
その時、クラスの空気が一変する。
一人の生徒が吐き捨てるように言った。
「カッコつけてんじゃねえよ。」
その日から帰国生徒への嫌がらせが始まった。
彼はクラスの空気に合わせようと
授業中発言をしなくなっていくのである。
ドラマを観ながら私はドキッとした。
もしかしたらあの日、彼女が私に伝えたかったのは
このドラマと同じ空気が支配する
クラスの現状だったのではなかったのか?
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2022年度都立高校入試から
英語にスピーキングテストが導入される。
現在の小学6年生からが対象となる。
いえいえ、安心することなかれ。
2020年からは大学入試においても
スピーキングテストが導入されるのだ。
話す力に課題があると言われてきた我が国の英語教育。
私はこれは英語の問題だけではなく、
日頃から周囲の様子をうかがい、
発言を控えようとする独特なその場の空気にも
一つの原因があるのではないかと考えている。
目立って発言すると周囲から何か言われるのでは、という
不安を振り払う環境づくりも大切なのではないだろうか。
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冒頭の女子生徒の後日談。
彼女が卒業してから何年も経った頃、
私のもとに彼女からの手紙が届いた。
長年の夢であった「舞台芸術」を学んでいるという。
封筒の中に一枚の写真が同封されていた。
ビッグベンとテムズ川をバックに
世界中からやって来た目的を同じくする仲間たちに囲まれた
笑顔の彼女の姿がそこにあった。
✳️『富岳の眺め』No.32(2018年9月1日up)も
合わせてお読みいただければ幸いです。