校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.112
- 公開日
- 2020/02/29
- 更新日
- 2020/03/01
校長室より
No.112【ハーメルンの笛吹き男とは?】
グリム童話『ハーメルンの笛吹き男』
昔々、ドイツのハーメルンの街で
ネズミが大量に発生した。
せっかく収穫した穀物が荒らされる。
ある日、街へとやって来た笛吹き男が
自分がネズミを退治しようと持ちかける。
困っていた街の人たちは大金を約束に
笛吹き男にネズミ退治を依頼する。
笛吹き男が笛を吹き始めると
不思議なことに家々にいたネズミが現れて
笛吹き男についていくのだ。
笛吹き男はそのまま川へとネズミを誘導し
全てのネズミを溺(おぼ)れさせた。
しかし、街の人たちは約束を破り、
大金を払わなかった。
怒った笛吹き男が再び笛を吹くと
今度は家々から子どもたちが現れて
笛吹き男について、どこかへと消えてしまった。
何とも不気味な物語ではないか。
日本で紹介された時は、
この悲劇的な結末が童話にふさわしくないと
街の人たちと笛吹き男が和解して
子どもたちが無事に戻るところで終わる。
🐭
実はこの童話は一つの事件が元となっている。
1284年、ハーメルンの街で
実際に130人の子どもたちが
忽然(こつぜん)と姿を消しているのだ。
中世のヨーロッパではネズミが原因となって
感染症が蔓延(まんえん)していた。
ペストである。
一つの説に、子どもたちが姿を消したのは
ペストが原因で亡くなったのであり、
笛吹き男は死神の象徴だという説がある。
しかし、先日読んだ本(※)によると、
どうやら、ネズミの大量発生や笛吹き男の話は
後の時代に付け加えられ、
今の物語が出来上がってきたようである。
それでは、なぜそんな創作がなされたのか?
当時、街から街へと渡り歩く
笛吹きなどの旅芸人たちは
得体の知れない存在として
街の人々から差別されてきた。
ペストへの恐怖、
そして旅芸人たちへの差別意識が
子どもたちが消えたという事件と一つになり、
人々の間で語り継がれていったという。
現代もまた新型コロナウイルス問題が
私たちを不安に陥れている。
未知のウイルスへの恐怖、
そして感染者が多い国に対する差別的な感情。
世界保健機構(WHO)は
ネットなどを通じて
不安を煽(あお)る投稿に対して
警鐘を鳴らし続けている。
この状況を"インフォデミック"と呼ぶ。
私たちが本当に恐れなければならないのは
悪意に満ちた情報の広がりなのかもしれない。
🐀
さて、130人の子どもたちの行方である。
疫病説をはじめとして
長年の間、様々な説が唱えられてきた。
その説の一つに移住説がある。
当時ハーメルンで
生活に困窮した子ども(若者)たちが
新たな土地を開拓するために
新天地へと旅立って行った。
そして、笛吹き男とは
その旅立つ子どもたちを導いた
リーダーだったというのだ。
私は個人的には
この移住説を信じたい。
(※)
阿部謹也 著
『ハーメルンの笛吹き男 〜 伝説とその世界』