校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.135
- 公開日
- 2020/08/14
- 更新日
- 2020/08/14
校長室より
No.135【戦争がもたらすもの】
昨年11月、長崎市の爆心地公園で
ローマ教皇が演説を行った。
平和を願うそのメッセージとともに
一枚の写真が世界に向けて紹介された。
「焼き場に立つ少年」
長崎で被爆直後に撮られたこの写真が
今、世界の注目を集めている。
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1945年8月9日午前11時02分
広島に続いて長崎に原爆が投下された。
それから1ヶ月後、米従軍カメラマンの
ジョー・オダネルは日本を訪れ
各地の様子を写真に収めていた。
その中の一枚がこの写真である。
一人の少年が亡くなった弟を背負い
火葬の順番を待っている。
ボロボロの服に裸足、
直立不動で唇を固く噛(か)みしめて
しっかりと前だけを見つめ、
悲しみに耐えようとするその姿は
75年経った今も私たちの胸を打つ。
NHK長崎放送局は3年間をかけて
この写真を調査した。
写真を最新科学で解析した結果、
少年の体に異変が見られることがわかった。
充血した目、鼻血の跡。
おそらく放射線による後遺症が
彼の体を蝕(むしば)んでいたのだろう。
その調査過程で出会った
かつての戦災孤児たち。
誰もが愛する家族を失い、
少年と同じように火葬場に立ったという。
その人たちのたどった人生が
いかに過酷なものであったのか
一人ひとりの証言に心が痛む。
戦災孤児たちは
今日をどう生きのびるかに追われ
肉親の死を悲しむことさえ
叶(かな)わなかったと話している。
今は亡きジョー・オダネルによると
少年は幼い弟の火葬を見届けた後、
後ろを振り返ろうともせずに
その場を立ち去ったとされる。
その後、少年がどこへ行き、
どう生きたのかは誰にもわからない。
📷
ローマ教皇が世界中に配布した写真
「焼き場に立つ少年」
その写真の裏面には
一言こう記されている。
“戦争がもたらすもの”