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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.180

公開日
2021/06/12
更新日
2021/06/12

校長室より

No.180【戦争を知らない子供たち】

戦後17年経って生まれた
私の世代が子供だった頃はまだ
周囲に多くの戦争体験者がいた。
「戦争を知らないだろ」
それが大人たちの口ぐせだった。

戦争を知る世代が
戦争を知らない世代に苦言する。
そんな大人たちに対して
子供心に反発をしていた。
「戦争を知りたくもない」と。

🕊️

先日読み終わったドイツの小説
『レストラン「ドイツ亭」』
(アネッテ・ヘス著)

戦後18年が経った1963年が
物語の始まりである。
24歳の主人公エーファ、
彼女は通訳として
アウシュビッツ裁判に
関わることになる。

ポーランドにある
アウシュビッツ収容所では
第二次世界対戦中に
数多くのユダヤ人が
強制連行され、
虐殺されていた。

しかし多くのドイツ人は
そこで何が行われたのか
当時はまだ知らなかったのだ。
主人公のエーファも同様である。
両親の経営するレストランは
地元の人たちから愛され
とても繁盛している。
恋人との結婚を控えた彼女は
何不自由ない平和の中で
幸せな日々を送っていた。
その裁判に関わるまでは・・・

やがて心優しい両親の過去が
アウシュビッツと結びついていく。
その時彼女は
自分は戦争を知らなかったと
平和の中へ逃げ込むことが
許されなくなっていくのだ。

🍴

その本を読み終えた私は
ある歌を思い出していた。

『戦争を知らない子供たち』

1970年の大阪万国博覧会。
そのフィナーレの会場で
歌われたフォークソング。
1970年は
既に日本国民のほとんどが
戦後生まれとなっていた。

私は久しぶりにその歌を
くちずさみながら、
ふと思い至ったのである。

戦争を知ることこそが
戦争を知らない世代へと
繋がっていくことに。