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校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.204

公開日
2021/11/27
更新日
2021/11/27

校長室より

No.204【誰かが言っていた】

1973年に東海地方のある県で
一つの噂(うわさ)が駆け巡った。

「○○信用金庫が倒産する」

噂を耳にした預金客たちは
その信用金庫へと殺到した。
自分たちの預金が倒産を機に
失われるのではないかという
不安に襲われたのだ。

しかしこれは全くの誤報だった。
SNSもまだ存在していなかった
今から50年近くも前に
なぜそんな噂が広まったのか?

🏦

ここで質問を二つ。

(A)
あなたはいい人だ。

(B)
あなたはいい人だという
評判を聞いた。

あなたが嬉しく感じるのは
(A)(B)のどちらだろうか?

それでは次の(C)と(D)では
どちらが嫌な気持ちになるだろうか?

(C)
あなたは悪い人だ。

(D)
あなたは悪い人だという
評判を聞いた。

(B)も(D)も
直接的に言われた訳ではない。
しかし嬉しさも嫌な気持ちも
(B)や(D)の方が
大きく感じるのではないか。

心理学的に人間は
直接的に言われることよりも
間接的に言われたことの方を
信じやすい傾向にあると言う。


「あなたの悪い評判を聞いた」
私もかつて知人からそう言われて
心が折れそうになった事がある。
「悪い評判」を言っているのが
誰なのかもわからないのに。

👂

○○信用金庫の噂のきっかけは
単なる偶然の重なりだった。

電車内での高校生の会話。
ある高校生が○○信用金庫に
就職が決まったという話をした。
信用金庫は強盗が入ると危ないよ、
別の高校生が心配してそう話した。

電車内での高校生の何気ない会話が
いつしか一人歩きをし始めた。
「○○信用金庫」と「危ない」が
別のストーリーに変換される。

「○○信用金庫が危ないと聞いた」
人から人へとそう噂が広まっていき、
ついには
「○○信用金庫が倒産する」という
新たなストーリーが出来上がったのだ。

その後の追跡調査において
噂を信じた人たちの多くが
こう語っていたという。

「誰が言ったのかはわからない」と。