校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.216
- 公開日
- 2022/02/12
- 更新日
- 2022/02/12
校長室より
No.216【少し距離をとる】
「象が空を飛んでいた」
そう言われても誰も信じない。
しかしこう言われたらどうだろうか。
「4257頭の象が空を飛んでいた」
細部にわたる情報が入る事で
誰かが見ていたかのような
具体的な光景がイメージされる。
世にはびこるフェイクニュース。
その多くがまさに見てきたような
細部にわたる描写が含まれている。
そしてニュースに接した人たちも
その光景が瞼(まぶた)に浮かび、
同じように目撃したかのような
錯覚に陥(おちい)るのだという。
🐘
ネット広告にも同じ仕掛けがある。
「3ヶ月で7キロ痩(や)せた」
このようにネット広告でPRしていた
ダイエットサプリメントの会社が
行政処分を受けたと報じられていた。
サプリを飲むだけでは効果はなく、
適度な運動や食事制限とを
組み合わせることによってはじめて
ダイエット効果があると実証された。
その結果、不当表示広告として
問われることになったのだ。
「3ヶ月」「7キロ」
具体的な数字が示されることで
消費者はその広告を信じやすくなる。
まさに商品を売るための仕掛けである。
そこで私はこのコラムを書くにあたり
改めて様々なネット広告を調べてみた。
すると次から次へと同じような
具体的な数字を使った広告が
ネット上に表示されてきた。
「97%の利用者に効果あり」
「先着順のため残り個数は6個」
これがもしも
「利用者のほとんどに効果あり」
「残りわずかとなっている」という
表示のされ方であったとしたなら
少しは冷静になれるように思う。
「顧客満足度98%」
それだけの人が満足しているなら、
そう思って「購入」をクリックする。
しかし実際にある会社では
お金を払ったアルバイトに
アンケートを記入させて
「とても満足した」と
答えてもらっていた事例もある。
集団心理を巧みに利用した
広告も数多く見られた。
私たちは一体何をどこまで
信じればいいのだろうか?
💰
「人のことを信じなさい」
私はそう教えられてきた。
「疑う」よりも「信じる」方が
人間的であるように「信じて」きた。
しかし現実の社会では
人々を信じさせることで
利益を得る仕組みも存在する。
「人を疑いなさい」とは
学校教育ではなかなか言いづらい。
そこで別の言い方を考えてみた。
「少し距離をとってみたら」
何かを購入しようと思った時、
慌てることなく落ち着いて
じっくりと調べてからの行動でも
決して遅くはならないだろう。
「これをぜひ買いたい」と思った時、
「少し距離をとってみよう」と
自らに言い聞かせてみてはどうだろう。
もしかしたら見えていなかった光景が
少しは見えてくるかもしれないから。