校長室の窓から〜『富岳の眺め』No.210
- 公開日
- 2022/01/02
- 更新日
- 2022/01/03
校長室より
No.210【矛と盾】
時代は戦国の世、
関ヶ原合戦の直前。
場所は琵琶湖のほとり
近江の国、大津城。
その城が石田三成 側の
西軍によって包囲されている。
いや、歴史の説明は省こう。
この物語の主役は
有名な戦国武将たちではない。
城を攻める鉄砲職人と
城を守る石垣職人である。
物語は名も知らない彼らによる
し烈な攻防戦を描いている。
今村翔吾の小説
『塞王の楯』(さいおう の たて)。
職人たちの視点から描かれた
これまでにない歴史物語である。
鉄砲職人たちは
最新の武器を製造することで
戦いの決着を早めようと考える。
石垣職人たちは
強固な石垣を築くことで
攻撃を無力化したいと考える。
鉄砲職人も石垣職人も
共に願いは同じである。
早く戦国の世を終わらせ、
これ以上犠牲者を出さないこと。
そのためにはどちらも
この大津城での戦いに
負けるわけにはいかない。
🏯
一方による攻撃を防ぐには
もう一方にも武装が必要となる。
しかしその武装を圧倒するため
最新鋭の強力な武器が
次々と発明されていく。
攻撃力が増せば増すほど
新たな武器をも跳ね返す
防衛手段が考案される。
小説の中でも
強固な石垣を破壊するために
最新の大砲が配備される。
繰り返される軍備の増強。
これは戦国時代の話を借りた
現代の話でもある。
どんなものでも突き通す「矛(ほこ)」
どんなものでも防ぎ切る「盾(たて)」
その「矛」を使って
その「盾」を攻めれば
それぞれの「どんなもの」が
両立することは決してあり得ない。
🕊️
2022年新年早々、
世界に目を転じれば
ウクライナの国境付近に
軍備増強のニュースが流れる。
そしてその増強の理由は
欧米諸国もロシアも
自国の平和を
守るためなのである。
誰かを守るために
誰かを犠牲にする。
人間とはまさに
「矛盾(むじゅん)」を抱えた
存在なのかもしれない。
しかし人間はまた
その矛盾を抱えながらも
様々な危機を乗り越えてきた
存在でもある。
物語の職人たちが
最後まで平和への希望を
失わなかったように。